恒星が短い周期で明るくなったり暗くなったりすることはあるが、突然消えてしまうことはない。だから、はるか彼方の巨星が約200日にわたって見えなくなった現象は天文学者たちを驚かせた。
それからおよそ10年、天文学者たちはさまざまな可能性を検討してきた結果を、2021年6月11日付けで学術誌「王立天文学会月報」で報告した。
論文では、恒星のすぐ近くにブラックホールがあって、その周囲を円盤状の暗い物質が公転しているという説や、塵に覆われた未発見の伴星があるという説など、現時点で可能性が残っているいくつかの仮説が提案されている。しかし、星の光がほぼ完全に消えてしまった原因はまだ解明できていない。
遠方の星の光を遮っているものの正体が、問題の恒星よりもはるかに大きな物体であることは明らかだ。さらに、この物体は完全に不透明で、はっきりした縁がある物体と見られる。
「明るさの低下の度合いはきわめて印象的です」と、大質量星を研究している米ワシントン大学のエミリー・レベスク氏は語る。「この恒星をもっとよく観測して、減光の原因を突き止め、こうした現象が起こるしくみを解明できたらすばらしいと思います」。氏は今回の研究には関与していない。
挙動不審な巨星
銀河系内には奇妙なふるまいをする星がたくさんあり、その多くが自然に明るさを変えている。オリオン座の肩に位置する赤色超巨星のベテルギウスはこうした変光星の1つだが、2019年に極端に暗くなり、爆発するのではないかと憶測を呼んだ。まもなくベテルギウスは通常の明るさに戻り、天文学者たちは現在、恒星の南半球の低温域と吐き出された塵が減光の原因だったのではないかと考えている。(参考記事:「オリオン座の巨星に異変、超新星爆発が近い?」)
さらに大きな話題となったのは、2015年の「タビーの星」だ。この恒星の明滅は非常に奇妙だったため、宇宙人の巨大建造物によって恒星の光が遮られている可能性を考える科学者もいたほどだった。この魅力的な仮説はしばらく注目されていたが、2018年の観測により、減光の原因がただの塵であることが明らかになった。(参考記事:「「人類は宇宙人に好意的」、発表が物議、米学会」)
2012年前半に見えなくなった今回の恒星も、「タビーの星」と同じくらい興味深い。
論文を執筆した英ケンブリッジ大学の天文学者リー・スミス氏は、「星の明るさがこれほど大きく長く低下することは異例で、すぐに珍しい現象だとわかりました」と語る。
スミス氏は、チリのVISTA望遠鏡を使って南天の変光星を調べる「VVVプロジェクト」のデータを調べているときに、この奇妙な減光を発見した。プロジェクトの17年にわたる観測の中で、問題の恒星が暗くなったのは2012年の1回だけだった。
この恒星は「VVV-WIT-08」という特別な名前で呼ばれるようになった。「WIT」はVVVプロジェクトの天文学者が不思議な天体を分類するときに使う頭字語で、「What is this(これは何だ)?」から来ている。研究チームはこの星を追跡調査の対象とした。
初期の観測から、VVV-WIT-08は2万5000光年以上離れたところにあり、太陽の100倍ほどの大きさの低温の巨星で、年齢は80億歳程度だろうと推定された。
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