爆発した隕石の破片が気化し、超高温のガスとなって地表に叩きつけられる
今から43万年前、太陽系内をさまよっていた直径100メートルほどの小惑星が、地球にぶつかるコースに入った。その先には、人のいない氷の大地、南極大陸が広がっていた。 ギャラリー:小惑星、彗星 地球にぶつかったら大変な天体12点 北半球にマンモスがいて、ヨーロッパで初期のネアンデルタール人が広がりつつあった時代のこと。地球の厚い大気に猛スピードで突入した隕石は、低空で爆発、破片は気化して地表の氷に襲いかかった。 このタイプの空中爆発は、地面にクレーターをうがつことはないため、その痕跡を見つけたり、どれほどの頻度で起きるかを知るのは困難だ。 今回、英ケント大学の惑星科学者マティアス・ファン・ギネケン氏らの研究チームは、南極で見つかった微粒子を詳しく調べることで、何十万年も前の空中爆発事件を解明、3月31日付けで科学誌「Science Advances」に論文を発表した。「大きな隕石の落下はきわめて珍しいので、最近の研究では隕石の空中爆発の方が大きな脅威でないかと考えられています」と同氏は語る。 たとえば2013年には、ロシアのチェリャビンスクで隕石の空中爆発が起きている。10メートルほどの大きさの隕石が空中で爆発、衝撃でガラスが割れるなどして1600人以上が負傷した。この隕石がもっと大きく、43万年前に南極に落下した隕石と同じ程度の大きさだったら、町は破壊されていただろう。爆発の威力は、1908年にロシアのツングースカ上空で爆発した隕石の4倍、広島に落とされた原子爆弾の数千倍にもなるはずだ。 チェリャビンスク規模の隕石爆発は、予期せぬタイミングで起こることが多い。地球で最高の望遠鏡をもってしても、小さな小惑星を見つけるのは難しいからだ。ファン・ギネケン氏は、「私たちは今回、地質記録からこうした爆発について知る方法を編み出しました。隕石衝突の歴史を再評価するのに役立ちます」と言う。
氷に閉じ込められた証拠
2018年2月、ファン・ギネケン氏は流星塵を探すために、ベルギーの南極隕石調査団の一員として南極大陸を訪れた。チームは二十数カ所を調査したが、多くの発見があったのは、そのうちの1カ所、セール・ロンダーネ山地と南極高原が接する位置にある岩山だった。80万年以上前に氷河が削り取った平らな山頂は、流星塵を完璧な状態で保存していた。 「南極では、山の上に宇宙以外からものが落ちてくることはめったにありません。非常に清浄で、人間の活動がないのはもちろん、植物も生えていないからです」とファン・ギネケン氏は言う。「だから、宇宙から降ってきたすべての物質が、非常に長い間保存されているのです」 ファン・ギネケン氏らは山頂で5キログラム以上の堆積物を採取して研究室に持ち帰り、その中から17粒のスフェルール(爆発の最中に溶けて再び固まった隕石の球形の微粒子)を選んで詳細に分析した。ファン・ギネケン氏は、この黒い粒子が地球外からきたものであることはすぐにわかったが、何かがおかしいとも感じた。一般的な流星塵とは違い、複数の球状粒子がくっついているものがあったからだ。 スフェルールの酸素同位体比を調べたところ、既知の隕石とは異なる点が明らかになった。空中爆発によってできたものとしては珍しく、このスフェルールは南極の氷にじかに接触して形成されたようなのだ。 今回のスフェルールは、ファン・ギネケン氏が以前調べた流星塵によく似ていた。その流星塵は南極にある日本のドームふじ基地やフランスとイタリアのコンコルディア基地で採取された巨大な氷床コアに含まれていたもので、氷床コア中の位置(表面から2.5キロ下)から約43万年前のものと推定された。 サンプルどうしの共通点から、これらの粒子はすべて同じ爆発現象によって形成されたと考えられた。また、南極大陸にはクレーターがないことや、スフェルールが大陸の広い範囲に散在していることから、それは巨大な空中爆発だったと推定された。
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