Ingenuity(インジェヌイティ)の火星飛行に並ぶビッグニュース。
NASAが4月20日、火星探査機パーシビアランス搭載の「MOXIE」で約5gの酸素生成に成功し、火星移住計画に偉大な一歩を刻みました。
酸素は火星の大気中に豊富に含まれる二酸化炭素から抽出したものです。5gというと、宇宙飛行士が5分も吸えば尽きるほど微量ですが、火星の離着陸には膨大な酸素が要りますし、それが火星上で作れるとわかっただけでも快挙と言えそう。
インジェヌイティが地球外初飛行なら、MOXIE(火星酸素現場資源活用実験: Mars Oxygen In-Situ Resource Utilization Experiment)は地球外初の酸素生成器。ふたつの実験で火星がまた身近になりましたね。
いずれは呼吸用の酸素や、帰還時ロケット発射で燃やす酸素も、現地調達できるやもしれません。
もちろん貨物で前もって届けておく手もあるけど、それだとお金と時間がかかり過ぎ。1トン酸素があれば4人のクルーで1年は生き延びれますが、離陸のとき燃やす酸素はその比じゃないみたい。MOXIEプロジェクト主幹調査官のMichael Hechtさんはメールでこう語っています。
「いつか火星に人を送り込みたいとは思っているが、持ち物は巨大。一番大きいのが酸素タンクで、これだけでも約25トン要る計算だ」
に…25トン(2万,000kg)...!!! 呼吸用も含めて25トンですけど、大多数は「帰還ロケット離陸用」です。
そりゃ嫌でもMOXIE実験に期待がかかりますよね! 火星上で酸素を調達できれば「時間とコスト、不確定要素を格段に減らすことが可能」です。ただ「障壁の多い新テクノロジーなので、正確性を期すためにも、テストは火星上でやるほかない」のだそう。「それでMOXIEの出番となった(思いきりミニチュア版だけど)」と教えてくれました。
火星でどう酸素を生成するの?
「火星」と「酸素」ってあまり一緒に語られることはありませんよね。それもそのはずで、火星の大気は96%が二酸化炭素。MOXIEの役目はこの潤沢な二酸化炭素から酸素を分離抽出することです(一酸化炭素は廃棄物になる)。
「MOXIEでは、電気エネルギーの力で二酸化炭素分子(CO2)を一酸化炭素(CO)と酸素(O2)に分解している。使うのは電解と呼ばれるテクノロジーだ。これは燃料電池に非常によく似ている。まあ、燃料電池は最初に燃料と酸素があって、この2つを化学反応させて電気エネルギーを出力するので、ベクトルは逆だが」(Hechtさん)
MOXIEはトースターぐらいの大きさで、実験ではここがオーブンの役目を果たします。800℃まで加熱するので、それだけの高熱に耐える構造になっています。装置を通る気体を加熱・冷却するのは、3Dプリントで作成したニッケル合金のコンポーネントで、さらにエアロゲルで熱を内部に閉じ込めます。初実験でパーシビアランス探査機のローバーを熱から守るのは、MOXIEの金メッキシェル。加熱に約2時間かかるけど、稼働体制に入ってからは毎時最大10gの酸素生成が理論上は可能です。
火星上で正常に稼働するかどうかは、やってみるまでなんともいえませんでした。結果が芳しくない場合、「ローバー搭載に先駆けて、ラボで実験した2年前の成果が大きく後退してしまう」瀬戸際でしたが、初実験の結果は「上々」だったので、「火星でも通用するという自信をもって、地球上で前以上に大きなバージョンのものを開発・実証することが可能になる」とHechtさん。
一番驚いたことは?
初実験で一番驚いたことは何か聞いてみたら、地球上の実験結果と何ら変わりなく行なえたことが何よりの驚きだったと答えてくれました。
「家で押し入れに2年前にしまったものを取り出して何の問題もなく使えたら驚くだろう。MOXIEはあらゆる種類の酷使をし、加熱サイクルを実行し、地球から飛ばして宇宙の真空に放して、大気圏突入、全展開装置の爆発、地球外惑星という過酷な環境での稼働も経験したが、そのすべてに見事に耐えてくれた!」
MOXIEの第一の試練は火星までの旅でした。酸素はあと最低9回抽出します。これは火星時間で向こう1年間(地球時間の2年弱)かけて、次の3段階に分けて行なう予定です。
①MOXIEの機能の評価
②さまざまな大気のコンディションで行なう実験(昼と夜など)
③さまざまな操作モードで行なう実験(加熱・冷却温度など)
パーシビアランスがJezeroクレイタ―に着陸したのは2月18日のことでした。わずか2か月ちょっとの間にいいニュースが続きますね。実験はまだほかにも残っていますが、Mars 2020ミッションの成功はもはやだれも疑いようがないでしょう。
なんかインドではコロナの酸素不足で、酸素ボンベが高騰。強盗や奪い合いになっています。うまいこと地球でも酸素が作れたら…と思わずにいられませんね…はい。
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