宇宙開発の可能性は無限大。
NASAが運営している革新的先進概念プログラム(NIAC: NASA Innovative Advanced Concepts Program)が、このたび7つのサイエンスフィクションかと見紛うような斬新な研究をフェーズIIとフェーズIIIに昇格させ、総額500万ドル(およそ5億4,000万円)を提供すると発表しました。同プログラムは2月に16の新しいフェーズI研究を採択したばかり。
その目的は、サイエンスフィクションを未来の現実に変え、宇宙開発の可能性を広げていくことです。
NIACって?
NIACは、既存概念に捉われない斬新な宇宙開発技術を産学官民から幅広く募集しているアメリカの国家事業です。フェーズはいくつかあって、まずNIACの厳しい選考基準を満たした技術概念だけがフェーズI研究に採択されます。採択された研究者はおよそ12万5,000ドル(およそ1,360万円)の資金提供を受け、9ヶ月にわたってその技術がどれぐらい実現可能なのかを検証します。もしフェーズIでの実現可能性研究に成功したら、その後もフェーズII、フェーズIIIと順を追って申請することができて、採択されたら引き続き資金提供を受けられる仕組みとなっています。
今年の4月9日に発表された新たなフェーズIIとフェーズIII研究には、宇宙からニュートリノを観測する探査機、ヨットみたいなかたちをした斬新な恒星間探査機や、月の裏側に建設するデススターっぽい電波天文台など、目的も方法もさまざま。どれも実現するのには最低10年かかる壮大なプロジェクトですが、まだNASAのミッションとして認定されたわけではありません。
宇宙から星の秘密を暴く
今回唯一フェーズIIIへの昇格が決まったのはニュートリノ宇宙探査機です。米ウィチタ州立大学のNickolas Solomey教授率いる研究チームが構想しているのは、宇宙からニュートリノを探知できるまったく新しい探査機のコンセプト。200万ドル(およそ2億1,700円)の資金提供を受け、今後2年間に渡って開発していくそうです。
この研究の意義について、NIACのJason Derleth氏はNASAのプレスリリースで以下のように語っています。
ニュートリノは星の内部を"見る"ためのツール。ですから、宇宙からニュートリノを観測することができれば、私たちの太陽について、そして広くは私たちの銀河の構造について新しい知見がもたらされると期待できます。
ニュートリノ宇宙探査機が太陽を至近距離から観測すれば、核にある太陽炉の大きさやかたちを割り出せるかもしれません。あるいは、まったく別の方向に探査機を飛ばせば、天の川銀河の中心に位置する星から発せられるニュートリノを検出できるかもしれません。
フェーズIIIの終わりまでにはニュートリノ宇宙探査機のテスト機が完成しているはず。そして実際CubeSat(四角い研究用の超小型人工衛星)に乗っけてテストできるようになるはずなので、乞うご期待です。
めくるめく宇宙探査の展望
このほかにも6つの研究がフェーズIIへと引き上げられ、それぞれに50万ドル(およそ5,430万円)の資金が提供されることとなりました。
そのひとつに、米カリフォルニア州のGlobal Aerospace Corporation所属のKerry Nock氏が提案している宇宙探査機の減速装置があります。上がそのコンセプト図なんですが、冥王星、もしくは同様に空気圧が低い天体へのランディングを可能とする大きなアドバルーンのような装置がポイント。
また、米オハイオ州のOhio Aerospace InstituteのJeffrey Balcerski氏が開発中の空飛ぶおりがみみたいな金星探査機もフェーズII入りしました。2020年9月には金星の大気中にホスフィンが観測され、生命の痕跡の証かもしれないと世間を驚かせましたが、いずれ金星にこのおりがみ探査機を送り込んで実際に大気を観測できたらもっと驚きの発見があるかもしれません。
もうひとつ、NASAのジェット推進研究所に所属するロボット工学者・Saptarshi Bandyopadhay氏が去年提案した月面クレーター電波望遠鏡もフェーズIIに昇格しました。月の裏側にあるクレーターの縁に等間隔で配置されたミニローバーが電波受信網をクモの巣のように張り巡らし、直径1キロメートルの「太陽系随一の大きさを誇る充実開口電波望遠鏡」を構築するという、なんとも壮大なこの計画。今後は「電波望遠鏡の性能と、ミッションのアプローチの仕方を精緻化」することが求められているそうです。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のArtur Davoyan氏が提案しているCubeSatを搭載した宇宙ヨットもフェーズII入りしました。CubeSat自体が超小型でごく軽量なことに加え、ヨットの推進力となるソーラーセイルそのものが鏡のように光を反射する薄い金属の膜で作られていて軽量なため、ボイジャー1号の20倍の速度で宇宙空間を移動できると想定されるそうです。なので、「1年間で地球と太陽の距離の60倍を移動できると考えられ、今まで5年間かかっていた木星までの旅も5ヶ月しかかかりません」(UCLAのプレスリリース)。Davoyan氏のチームの今後の課題は、いかに超軽量で、しかも極限の温度にも耐えられる材質のセイルを開発すること。もしこれが実現したら、太陽系内探査、ひいては恒星間空間探査のあり方が劇的に変わりそうです。
菌類を使って宇宙居住施設?
今回フェーズIIに採択された中でも異彩を放っているのが、NASAのエイムズ研究センター所属のLynn Rothschild氏が提案している技術概念です。詳しくはNASAの広報ページからどうぞ:
いずれは宇宙での居住空間を構築するために、菌類を育成させて作った構造を研究しています。これまで行ってきた菌糸体の製造・模造・耐久テストの研究に加え、今後はさらに幅広い種類の菌類、育成環境と細孔径のテストを重ねていき、月や火星を模した環境下でのプロトタイプ育成も行っていきます。この研究では地球上での応用も視野に入れ、生物分解可能な食器や簡易でローコストな建造物なども検討しています。
ということで、いずれは火星や月に菌類を育てて製造した建造物に住むことになるかもしれませんね。突飛なアイディアだけにものすごく気になります。
最後にもうひとつ、米カリフォルニア州のTrans Astronautica CorporationとPeter Gural氏が取り組んでいる小惑星探査システムについても触れておきます。Guralさんが提案しているのは宇宙に放つ3機の宇宙船で、どれにも何百という望遠鏡と画像処理システムが搭載されるのだそうです。この船隊を用いることで、現在使用されている小惑星探査システムよりも400倍速く小惑星を探知できるようになるのだとか。フェーズIIでは主に画像データをフィルターする技術が鍵となってくるようです。
未来の宇宙の旅は、もう始まっている
もちろんNIACに採択された研究がすべて実現するとはかぎりませんし、仮に実現したとしても将来正式にNASAのミッションとして予算を組まれるかどうかもわかりません。
でもNIACに選ばれた研究についていろいろ想像しているだけでめっちゃ楽しくないですか?未来の宇宙開発は、気鋭の物理学者や工学者の卓越した創造力から始まっている。もしその創造力の先に月の天文台や冥王星探査が何十年後かに実現したら、なおさら鳥肌ものです。
Reference: NASA Innovative Advanced Concepts, NASA Press Release (1, 2, 3, 4), UCLA
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