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氷にくっついてた植物は語る。100万年前のグリーンランドには氷がなかったってさ - GIZMODO JAPAN

誰かにとってどうでもいいものは、誰かにとっての宝物かもしれないって本当なんですね。

1.6kmの厚さがある氷の底から100万年前の植物を発見

冷戦時代に軍の作戦で採取されてから、何十年もの間ずっと冷凍庫に保管されていた瓶の中に、気候変動や海面上昇に関する重要な新情報が隠されているかもしれません。米国科学アカデミー紀要に掲載された研究によると、1960年代半ばに約1.6kmの厚みがある氷から採取された土のサンプルから発見された植物の化石は、人類が現れる前の世界に、グリーンランドの氷床を完全に解かすほど暖かかった時期があったことを示唆しているのだとか。

研究では、グリーンランドの大部分を覆う氷床に穴を開けて採取したアイスコアの底にあった堆積物を調べたそうです。バーモント大学の博士研究員で本研究の筆頭著者を務めたドリュー・クライストさんは、「氷の圧力が非常に強いため、岩盤まで到達してサンプルを採取するのは非常に困難で、氷河の底から堆積物を採取した調査隊は数えるほどしかいないんです。月の石よりも、こっちの堆積物の方が少ないくらいです」と話してくれました。

今回のサンプルには多くの植物が含まれていて、中には肉眼で見えるものもあったのだとか。クライストさんは、「森へハイキングに出かけると、ブーツの底にたくさん小枝やらその辺に転がっている小さなものやらがくっついてくるのできれいに落としますよね。そういったものが、100万年前に凍ってしまったんです」と言います。

クライストさんと研究チームがさまざまな元素の同位体を分析したところ、サンプルが最後に太陽や宇宙線にさらされた時期が明らかになりました。するとなんと、この植物はおよそ100万年前のものだったんですって。100万年って、氷期約10回分じゃないですか。

温暖化が進むとヤバいことを示す100万年前の植物

今回のサンプルを分析する前にも、グリーンランドの氷床がかつて完全に解けていたことを示す「状況証拠」はあったんだそうです。「物理的な証拠」ではなく。でも、今回の化石の発見は、いろんな植物が生息していた氷のない時代がグリーンランドにもあったことを決定的に示しているとのこと。すげーって感心してしまいますが、現代を生きる私たちにとって、これは悪いニュースです。グリーンランドの氷床が完全に解けてしまうと、海面は約6メートル上昇するとされています。まさに気候変動の時限爆弾。明日あさってにも完全に解けちゃうというわけではありませんけど、現在、氷床は1980年代の6倍の速さで解けているんです。二酸化炭素の増加によって引き起こされた変化に気候が適応して新たな平衡状態になるまでには何世紀もかかると考えられます。氷床の歴史を知ることは、氷床の未来を知ることにつながります。

「人間の影響を受けていない気候システム下で、グリーンランドの氷床は完全に解けてしまいました。人間が二酸化炭素を大気中に放出する前の気候ですら、氷床を解かすことができたんです。今後、制御不能な速さで温暖化が進めば、ある時点でグリーンランドの氷床がしきい値を超えて強制的に解かされ、海面を上昇させてしまう可能性があります」とクライストさんは説明してくれました。

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Image: University of Vermont
堆積物から見つかった植物のサンプル

100万年前の植物は冷戦時代の極秘任務のおまけ

クライストさんたちが使用した土のサンプルには、歴史的に失われかけていたことを含めて驚くべき背景があったのだとか。サンプルは、1966年に「Camp Century」と呼ばれるアメリカの秘密軍事施設に遠征した際に、グリーンランドで初めて採取されたアイスコアからみつかったのだそう。遠征の目的は、ジェームズ・ボンドばりの極秘任務「アイスワーム計画」で、核ミサイルをソ連(当時)の氷の下に隠そうとするものだったんですって(フェイクニュースではありません)。科学的な部分は本当だけど、ほぼほぼこの冷戦時代の悪ふざけを隠すためだったみたいですね。アイスワーム計画は結局失敗に終わりましたが、少なくともこの魅力的なアイスコアを手に入れることができました。でも、気候変動によってCamp Centuryの氷が解ければ、冷戦時代の物資や化学物質から有毒廃棄物が流出してしまうかもしれないというマイナス面があるのはマジ怖くないですか。

ところで、これまではグリーンランドで初めて採取されたという経緯もあってか、研究者の関心がアイスコアから得られる情報に集中したため、その付着物にはあんまり注目されませんでした。

「数センチほどの物体を引き抜いていたときに、見た目から間違いなく植物だとわかりました。科学者たちは、今までどうしてもっと注意深く確認しなかったんでしょうね。氷の分析が優先されて、土壌は分析されなかったのではないでしょうか」とクライストさんは言います。

クライストさんが「歴史のいたずら」と表現するように、研究者にとって土壌サンプルは優先順位が低く、探検隊が帰国したときには行方不明になっていたのだとか。サンプルはまずバッファロー大学の軍用冷凍庫の奥に放り込まれ、その後1990年代に他の物質と一緒くたにされてデンマークの研究施設の冷凍庫に人知れず移されました。2017年になってから、クライストさんの指導者のひとりで論文の著者でもあるJP Steffensenさんが、その施設で冷凍庫を移動させるための棚卸しをしていたときにサンプルが再発見され、より詳細な分析ができるようになったとのこと。

1960年代の研究者たちは、古代の土を掘って得たものがいったいなんなのかさっぱりわからなかったかもしれませんが、クライストさんは彼らの残したものが自身の科学キャリアで最もエキサイティングな瞬間のひとつを与えてくれたことに感謝しているそうです。

クライストさんは、研究チームが分析のために洗っている堆積物のサンプルの中に小さな植物を見つけたときのことをこう語っています。

「化石を発見した日は、長い間ずっと探していた物を見つけたようでした。科学者にそんな日が本当に来るなんて思ってもいませんでしたが、私には来ちゃいましたね。とても興奮して、研究室の中で飛び跳ねてしまいました」

探し物は見つけにくいものだったけど、かばんの中からでも机の中からでもなく、靴の底からみつかったんですね。

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