米国航空宇宙局(NASA)は史上初めて、火星で航空機を飛ばすことに成功した。4月19日、1.8キログラムのドローンヘリコプター「インジェニュイティ(Ingenuity)」は火星表面から離陸し、高さ約3メートルまで浮上して旋回し、40秒間ホバリングした。歴史的な瞬間はユーチューブで生配信され、インジェニュイティは2台のカメラのうちの1台で上の写真を撮影した。NASAジェット推進研究所(Jet Propulsion Laboratory)の「インジェニュイティ火星ヘリコプター(Ingenuity Mars Helicpter)」プロジェクトのプロジェクト・マネージャーを務めるミミ・アウンは記者会見で、「今や私たちは、『人類は別の惑星で回転翼航空機を飛ばした』と言えるようになりました」と述べた。アウンは、「私たちはインジェニュイティと一緒に火星で飛びました。私たちは共に、私たちなりのライト兄弟となる瞬間を持ったのです」と付け加え、1903年に実施された地球上での動力飛行機の初飛行に言及した。
実際、インジェニュイティには、ライト兄弟の有名な飛行に敬意を表す記念品が搭載されている。ソーラーパネルの下に、ライト兄弟の飛行機「ライトフライヤー( Wright Flyer)」号から取った切手サイズの素材1片がしまい込まれているのだ(アポロ宇宙船の乗組員もまた、ライトフライヤー号の木片を1969年に月へ持って行った)。
火星での飛行は重要な技術的チャレンジであった。骨まで凍りつくような温度(夜は摂氏マイナス90度まで下がる)と、信じられないほど薄い大気(地球のわずか1%の密度)のせいだ。つまり、インジェニュイティは軽量でなければならず、それでいてローターブレード(回転翼の羽根)は地球で離昇するのに必要なものよりも大きく、高速なければならなかった(火星の重力が地球の約3分の1しかないという点は有利に働いたが)。飛行試験は当初4月11日に実施される予定だったが、ソフトウェアの問題により遅れていた。
今回の飛行は、火星探査における重要なマイルストーンとなるだけでなく、技術者が他の惑星を探査する際の新たな方法について考える際の参考になるだろう。ドローンヘリコプターは将来、場所の様子を調べ、近づきにくい場所を探査して画像を撮影するなどして、ローバー(探査車)や、宇宙飛行士さえも支援する可能性がある。インジェニュイティはまた、NASAが2027年に土星の衛星タイタンに送ることを計画している車サイズのドローンである「ドラゴンフライ(Dragonfly)」の設計にも役立つだろう。
今後数週間で、インジェニュイティはさらに4回の飛行を実施する。それぞれの飛行は最大90秒間で、インジェニュイティの能力の限界を試すことが意図されている。インジェニュイティは設計上、30火星日間(火星の自転周期に基づく30日間)しか稼動できず、5月4日頃に機能を停止する予定だ。インジェニュイティの最後の飛行はジェゼロ・クレーター(Jezero Crater)内になる予定で、同時に、NASAは今回のミッションの主目的へと調査の段階を進めることになる。それは、「パーサヴィアランス(Perseverance)」火星探査車による、生命の存在を示す証拠を探すための調査だ。
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- シャーロット・ジー [Charlotte Jee]米国版 ニュース担当記者
- 米国版ニュースレター「ザ・ダウンロード(The Download)」を担当。政治、行政、テクノロジー分野での記者経験、テックワールド(Techworld)の編集者を経て、MITテクノロジーレビューへ。 記者活動以外に、テック系イベントにおける多様性を支援するベンチャー企業「ジェネオ(Jeneo)」の経営、定期的な講演やBBCへの出演などの活動も行なっている。
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