いかにも走る気満々
新型4シリーズ・クーペが登場したとき、すでに“度を越している”ほど大きいと感じたBMW伝統のフロントグリルである「キドニー・グリル」は、M4になってさらに10%ほど背が高くなった。もはやバランスを壊す一歩手前、いや、すでにインバランスの領域に入っているともいえるそのフロントマスクは、M4の獰猛さを物語っているようにも思える。
「サンパウロ・イエロー」というボディカラーは直射日光の下で見ると目映いくらいに明るく、なんだか最新のランニングウェアに使われていそうな色調。そう、M4の外観はまるで超軽量素材のスポーツウェアを全身にまとったアスリートのようで、いかにも走る気満々に見える。
【主要諸元(コンペティション)】全長×全幅×全高=4805×1885×1395mm、ホイールベース2855mm、車両重量1730kg、乗車定4名、エンジン2992cc直列6気筒ガソリンターボ(510ps/6250rpm、650Nm/2750〜5500rpm)、8AT、駆動方式RWD、タイヤサイズ(フロント)275/35R19(リア)285/30R20、価格1348万円(OP含まず)。
© Hiromitsu Yasui
試乗車はオプションの「Mカーボン・セラミック・ブレーキ」(107万5000円)を装着していた。
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これに比べると、おなじ4シリーズ・クーペでも通常モデルのトップグレードであるM440iは、スーツ姿に白Tシャツを組み合わせた、ちょっとスポーティな“おしゃれスタイル”のよう。どちらもハイパフォーマンスモデルとの位置づけだが、外観に表れた2台の差は意外と大きい。
ちなみにBMWはM4のようなMモデルのことを、最近は“Mハイパフォーマンス・モデル”と呼ぶ。これに対し、M440iのように数字が3ケタで、“M”よりも日常的な快適性に若干振ったモデルは“Mパフォーマンス・モデル”と呼ぶ。MモデルをMハイパフォーマンス・モデルと名付けたのは、これと区別する目的があったのだろう。ちなみにBMWはMハイパフォーマンス・モデルのことを「サーキットでの走行が可能」、Mパフォーマンス・モデルのことは「サーキットで培われた技術を余すことなく採り入れて走行性能を高めた」と説明している。
軽量化のため、ルーフはカーボン・ファイバー強化樹脂を使う。
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左右2本出し、計4本の「デュアル・エキゾースト・テールパイプ」は全車標準。コンペティション以上はブラック仕上げになる(標準はクローム仕上げ)。
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というわけで、これまでのMモデル(現在のMハイパフォーマンス・モデル)はサーキット走行のことを強く意識するあまり、乗り心地はかなり硬くて、エンジンにしてもハンドリングにしても扱いにくい印象が強かったのだけれど、新型M4はこの辺の事情がすっかり変わっていたので紹介したい。
コンペティションは標準モデルにくらべ、最高出力は30ps、最大トルクは100Nm、それぞれアップしている。
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ボディカラーはサンパウロ・イエロー。
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かつてのNAエンジンを思い出す
市街地を走り始めてまず伝わってきたのは、「おお、乗り心地をよくしようとしてかなり頑張ったな」というBMW側の意気込み。これまでのMハイパフォーマンス・モデルは、極端にいうと「サーキット性能を最重視したんだから、市街地の乗り心地なんてどうでもいいでしょ?」というある種のあきらめみたいなものが感じられた。おかげで、路面からはゴツゴツとしたショックが伝わってくるし、ボディの動きにしてもちょっと落ち着きに欠いた部分があった。
でも、新型M4はタイヤ表面の当たりがちょっと硬めに感じられたけれど、これを除けば、路面のデコボコにもスムーズに追随しようとするしなやかさが認められる。そのいっぽうで、足まわりがソフトに動く領域を一定範囲に制限することで、コーナリング時などのボディの傾きはしっかり抑え込もうとする意図も伝わってくる。いずれにせよ、これまでのサーキット走行一辺倒とは明確に方針が異なっている。
0〜100km/hの加速タイムは3.9秒。
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フロントに搭載するエンジンは2992cc直列6気筒ガソリンターボ(510ps/6250rpm、650Nm/2750〜5500rpm)。
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トランスミッションは8速Mステップトロニック・トランスミッション。標準モデルは6MTになる。
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エンジンの感触は、これはもう身震いするくらい素晴らしい。新型M4に搭載されるのはBMW伝統のストレート6であるものの、旧型の「S55B30A」ではなく新設計の「S58B30A」に置き換わっている。これに伴い、パフォーマンスも450ps/550Nmから510ps/650Nm(新旧ともにM4コンペティションの場合)へ大幅に引き上げられたが、それ以上に感動的なのは6気筒エンジンがまわっているときのフィーリングだ。
旧型も、大変滑らかなまわり方をしていたのだけれど、ちょっとスムーズすぎて無味無臭な印象がつきまとった。それに対し新型は、やっぱりスムーズであるものの、それでも“エンジンがまわっている”という確かな感触というか鼓動のようなものが伝わってくる。これって、まだ自然吸気だった20年くらい前のストレート6に通じる印象だ。その意味で “エンジン屋”たるBMWの矜持がしっかりと表現された回転フィールといえる。
WLTCモード燃費は10.1km/L。
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ステアリング・ホイールはM専用デザイン。走行モードを指先で切り替えられるスウィッチがスポークに付く。
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パワー特性やレスポンスも往年のNAエンジンを彷彿とさせる。低回転域から不自然なほど分厚いトルクを生み出すのではなく、エンジン回転の上昇やスロットルペダルの踏み込み量をしっかりと反映したパワー感やレスポンスは人間の感性にぴったりとマッチしたもので、ごくごく自然。ほどよいエンジンレスポンスやエンジンパワーのリニアリティを含め、よくできた自然吸気エンジンそのものだ。
そうした素直な特性のせいもあって、510psというハイパワーでありながらも扱いにくい印象は皆無。それこそ昔のNAエンジンのように軽やかな反応で、思い切ってそのパフォーマンスを引き出すことができる。
走行モードや「Mスポーツ・エキゾースト・システム」の切り替えはセンターコンソールのボタンでもおこなえる。
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フルデジタルのメーターはM専用デザイン。
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BMWの新路線
では、ハンドリングはいかに?
足まわりの動き方がしなやかになったのを確認した時点で予想されたことではあるけれど、新型M4はコーナリング中もタイヤが滑らかに路面に追随して、とても落ち着いたマナーを示す。
従来のMモデルでは、路面のうねりでステアリングが左右にとられる傾向が強く、かなりせわしない思いをさせられたが、これがほとんどなくなり、1度ステアリングを切り込んだら、その舵角を保つだけですーっとコーナリングする。私好みで、そしてとても安全なハンドリングだ。
試乗車は、センターコンソールにカーボンファイバーを使うオプションの「カーボン・ファイバー・インテリア・トリム」(15万1000円)付きだった。
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バケットタイプのMスポーツシートは電動調整式。
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M440iクーペには乗り込み時、シートベルトが前方にせり出す機構が備わっているが、M4クーペコンペティションではそれは省かれている。
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もうひとつの驚きが、ブレーキングのハンドリングに与える影響が大きく変わった点。これまでのMモデルは、コーナリングでステアリングを切り込んだあとでブレーキをリリースするドライビング(いわゆるトレーリング・ブレーキ)を試すと、減速Gの変化によってハンドリング特性が大きく変わってしまうため、直線時にブレーキングを終わらせる走りのほうが安定していた。
しかし、新型M4はコーナー進入までブレーキを残しても軌跡が乱されることなく、安心したコーナリングが楽しめるように変貌していた。
リアシートはふたりがけ。バックレストは40:20:40の分割可倒式。
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リアシート用エアコンは標準装備。フロントとは別に温度などを調整出来る。
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ラゲッジルーム容量は440リッター。
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古くから後輪駆動のハイパフォーマンスカーに親しんできたドライバーの皆さんであればご存じのとおり、このようなクセは、Mモデルだけに限らず、高性能なRWDモデルであれば多かれ少なかれあったはず。ただ、サーキット方向に振ったMモデルはなかでもその傾向が強かったといえる。
そうしたMモデルのクセも、4WDに生まれ変わった最新の「M5」では大幅に影を潜めた。そして新型M4は、この方向性がさらに明確だったので、私は新型M4もてっきり4WDである、と、思い込んでいたが、これは大きな間違い。
16スピーカーで構成されるharman/kardonサラウンド・サウンド・システムは標準。
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現在、駆動方式はRWD(後輪駆動)のみであるが、今後、4WDの「xDrive」が追加される予定。
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もうちょっと詳しく説明すると、実は新型M4にも今夏の生産分からオプションで4WDが選べるようになるが、現時点では全車後輪駆動。というわけで私が試乗したM4も後輪駆動だった。4WDのM5よりも後輪駆動のM4のほうが、スタビリティ志向が強いとは驚き以外のなにものでもないが、これがBMWの新しい路線なのかもしれない。
個人的には、スポーツモデルでもある程度のスタビリティを備えているほうが好きなので、Mモデルの変化は大歓迎なのだけれど、古くからのMファンが新しい方向性をどう評価するか? は、疑問。
その意味でいえば、BMWは新時代に向けて、ひとつの決断をしたといえる。
文・大谷達也 写真・安井宏充(Weekend.)
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