活性化するものもあれば、増加するものもありー。 人間は最期を迎えるとき、脳細胞に興味深い動きがみられることがわかりました。先日Scientific Reportsで発表された研究によると、死後まもなく脳細胞内のある“ゾンビ遺伝子”がしきりに活性化し、これにより一部の細胞が数時間にわたって(上の画像のように)膨張するという証拠を発見。
遺伝子によって違う動き
人間の細胞は、臨床的に死んだとみなされた後でもしばらくの間は機能していて、徐々に消えゆくことは周知の事実かもしれません。ただ、ほぼすべての細胞が同じ遺伝子情報を持っているにもかかわらず、細胞の種類によって遺伝子情報の発現は異なります。研究者たちが「死にゆく脳」の中のさまざまな細胞の遺伝子発現を調べたところ、いくつかの明確なパターンが見つかったそうです。 研究では、てんかんの脳手術を受けた患者から提供された脳組織のサンプル(手術によって、てんかんに関与する脳の一部を安全に取り除くことができる)を調査。摘出したばかりのサンプルを室温で最大24時間放置し、脳死のプロセスを模倣しました。そしてその間に細胞活動や遺伝子活動に関する情報を収集したといいます。 その結果、細胞の基本的な機能を維持する「ハウスキーピング遺伝子」と呼ばれる遺伝子の大部分は、24時間同じレベルの活動を維持していた一方で、思考や記憶などの脳機能をつかさどる「神経細胞遺伝子」では、12時間後に活動が低下するように。 脳の免疫・支持システムであるグリア細胞の機能に関連する第3の遺伝子群では、死後に遺伝子の発現が急増し、最大24時間増加し続けたといいます。またグリア細胞は神経細胞が退化するのと同時に、大幅に膨張して新たな"腕"のような形状のものさえも伸ばしていたとか。
従来の研究は、死後の脳サンプルばかりだった
もちろん、この研究結果は理論的にゾンビを認めるものではありません。死後にグリア細胞が特に活発になることは、研究者らにとってはさほど大きな驚きもないのだそうです。グリア細胞は、最期の瞬間に酸素を失った脳で起きる損傷や炎症に反応していると考えられます。 これまでのヒトの脳研究は、そのほとんどが死後の脳の検査に偏っているといいます。イリノイ大学シカゴ校医学部の神経学・リハビリテーション学部長であるJeffrey Loeb氏は、同大学が発表した声明のなかで次のようにコメントしています。 ほとんどの研究では、心臓が停止すると脳のすべてが停止すると考えられていますが、そうではありません。 今回の発見は、ヒトの脳組織を使った研究を解釈するために必要とされるはずです。現在まで、こうした変化は定量化されてきませんでした。 たとえば、アルツハイマー病などの認知症の研究は、死後12時間以上経過してから採取される脳サンプルに依存することが多いようです。今回の研究結果が妥当なものであれば、従来の研究の多くは死にかけた細胞内に残された重要な手がかりを見逃している可能性があるのだとか。 研究者らは今後、死にかけている脳で起こる変化をより適切に説明できるようになることを期待していると語っています。「今回の研究成果から得られたグッドニュースは、どの遺伝子や細胞が安定するか、どれが衰えるか、そしてどれが時間とともに増加するかがわかったこと」だとLoeb氏はいいます。
Rina Fukazu
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