VIVE Pro 2 |
VIVE Focus 3 |
発表後の5月下旬には,HTCの日本法人であるHTC NIPPONが,両製品のメディア向け体験会が開催しており,筆者はそれに参加して一足先に実機を体験する機会を得た。そこで,まずはVIVE Pro 2の体験記をレポートすることにしたい。
なおVIVE Pro 2は,日本では税込価格10万3400円で販売の予定で,すでに予約受付も始まっている。製品の基本スペックなどについては,以下のニュース記事に詳しくあるので,そちらを参照のこと。
VIVE Pro 2をまじまじと見てきた
この製品は,基本セットとでも言うべきもので,VR HMD本体しか入っていない。これは,コントローラやトラッキングデバイスとして,初代VIVEやVIVE Proのものがそのまま利用できるうえ,本製品の想定ユーザー層が,旧機種からの買い換えと見込まれているためだ。そのため,完全な新規ユーザーは,本体とは別に周辺機器を同時に買い求める必要がある点には留意してほしい。
次の写真は,製品ボックスに含まれるVR HMD本体と同梱物だが,本体のほかに,各種接続ケーブルとACアダプタ,交換用のイヤーパッドなどが含まれる。なお。写真右端に見える小さな箱は,PCとVR HMDの間に位置するインタフェースボックスだ。
ゴーグル部分の前面に取り付けて,顔面と接するフェイスパッドは脱着可能である。以下の写真はフェイスパッド部を取り外したところだ。VIVE Pro 2では接眼レンズが刷新されたわけだが,パッと見でその違いは分からない。
フェイスパッドを外した内側には,拡張用のUSB 2.0 Type-Cポートがある。これは追加の周辺機器を接続するためのもので,接続したUSB機器は,PC側で認識される。HTCのスタッフによれば,USBポートのもっともシンプルな利用方法は,USB接続型ヘッドセットの接続用だという。
theBluで5K解像度と120Hzリフレッシュレートを実感!
体験会では,発売前のVIVE Pro 2の試作機を使って,「theBlu」というVRタイトルを体験できた。
theBluは,2016年に登場したVRタイトルで,ゲームというよりは,環境VRソフトとも言うべきものだ。3種類の海底が用意されていて,それぞれの海中で海棲生物の生態を観察する。VR界では,もはや定番のクラシックタイトルであり,なぜ2021年の今になって,このタイトルを体験会に選択したのかをHTCスタッフに聞いてみた。すると,第一の理由として「かなり多くの人が見たことがあるタイトルであるため」であるという。
VIVE Pro 2は,いってみればVR HMDとしての基本は,既存の「VIVE Pro」からほとんど変わっていない。最大の変更点は,光学系と映像コア部分であるディスプレイである。そのため,映像体験の向上度合いを最大限に感じてもらうためには,過去に体験したことがあるVRタイトルの方が分かりやすいだろう,という考えというわけだ。
もちろん,こうしたインタラクティブ映像系のVRコンテンツは,「体験するにあたって操作説明がほとんど不要」という運用の簡単さも,採用のポイントとなったことは想像に難くない。
VIVE Pro 2の装着方法は,先代Vive Proと変わらない。頭頂部のストラップをゆるめて頭に被り,ちょうどいいところでストラップを締めて,後頭部のベルト締め付けダイヤルを回して固定する,という流れだ。現時点で重量は非公開とのことだが,装着したときの重さは大きく変わらないと思った。
なお,VIVE Pro 2のデモに使用したPCは,2018年登場の「ALIENWARE AURORA 8086Kモデル」をベースに,GPUを「GeForce RTX 2080」に交換したものだとのこと。
Whale Encounterでは,文字どおり「雑魚」(ざこ)とでもいうべき,小魚の群れがプレイヤーの周囲を泳ぎ回るのだが,VIVE Pro 2で体験すると,小魚の1匹1匹がちゃんと3Dモデリングされていたことに気付いた。
しかも無数のウロコを描いたテクスチャが,小魚の体に適用されているのも見てとれた。従来のVR HMDで見たときは,小魚は葉っぱのような平面オブジェクトだと思い込んでいたので,泳ぐ3Dモデルの魚たちであることに気づけたことが,最初の感動だった。
VR HMDで見える映像は実質的に立体映像なので,解像感の強化は,立体感の強化をもたらして,ひいてはオブジェクトの体積も実感できるというわけだ。
思い返せば,初代「VIVE」は両眼の解像度が2160×1200ピクセルで,先代VIVE Proでも両眼2880×1600ピクセルだった。しかも,赤と青のサブピクセルが実解像度の半分しかないRGBペンタイル構造を採用していたので,微細な表現がボヤっと見えていたと思う。おそらく,旧モデルのVIVEだと,Whale Encounterの小魚は見ているプレイヤーが「小魚なんだろうな」と解釈しながら見ていたような気がする。
岩礁のザラザラ感,珊瑚のボツボツ感,クラゲの"傘"のところにある脳みそのシワのような有機的なムニュムニュした凹凸感が「ちゃんと細かい凹凸があるように見える」のだ。
これらの微細凹凸表現は,ゲームグラフィックスに詳しい人ならばピンと来たかもしれない。このような表現は,1ポリゴン未満の微細な凹凸を表現するに用いられる法線マップによるものだ。直視型ディスプレイで見るゲームグラフィックスでは,ありふれた表現になりつつある。
旧モデルのVIVEでは,法線マッピングによる微細な凹凸は,陰影が辛うじて見える程度でしか表現できていなかった。凹凸に載るハイライトの表現も,ほとんど見えなくてつぶれるかぼやけるかしていたものだ。ところがVIVE Pro 2では,直視型ディスプレイで見る法線マップ表現と比べても遜色ない凹凸感を感じられた。5K解像感恐るべし,といったところか。
「Luminous Abyss」は,海底に降り立って深海魚の生態を観察するシーンだ。プレイヤーは,水中ライト(懐中電灯)と化したコントローラを振りまわして真っ暗な海底を照らしながら,深海魚の探索を行う。
有機ELパネルを採用していた旧モデルとは異なり,VIVE Pro 2ではディスプレイパネルとして液晶パネルを採用する。そのため,各ピクセルが自発光の有機パネルと違い,バックライトの透過光を遮断しながら各ピクセルを光らせる液晶パネルでは暗いシーンは苦手なのではないかと心配していたのだが,暗闇表現の黒浮きはそれほど気にならない。さすがにVR HMD程度の体積しかないデバイスで,バックライトのエリア駆動(ローカルディミング)はやっていないはずだが,フレーム単位のバックライト輝度制御くらいはやっているのかもしれない。
明暗差の激しいシーンでは,もしかするとちょっと違った印象になるのかもしれないが,全体的に暗いシーンで構成されるLuminous Abyssにおける海底の暗闇は,ちゃんと暗かった。
VIVE Pro 2は,120Hzのリフレッシュレートに対応しているわけだが,今回のTheBluのデモはまさしく120HzでのVR体験ができた。実感としても,筆者の動きに帯する映像の追従性は完璧で,遅延のような違和感はまったくなし。5K解像度の120fpsレンダリングは,PC側に相当な負荷がかかるはずだが,近年登場したハイエンドな新型GPUなら,無理難題というわけでもない。PC側もVR HMDが求める性能に追いついているわけだ。
ついに解像感で妥協しないVRがやってきた
文字や図版が多い教育系のVRコンテンツも,VIVE Pro 2であれば,実用レベルで楽しめるようになったのではないかと思える。だからこそ,同じ5K対応VR HMDとして,ビジネス用途に焦点をあてたVIVE Focus 3が同時発表されたのだろう。
VIVE Pro 2は,フレネル・レンズと球面レンズを組み合わせた新光学系の採用で,視野角が旧世代モデルの110度から120度に広がったことも強化点の1つだ。わずか約10%の視野角拡大なので,解像感の向上による感動と比べればインパクトは弱いが,より自然な視界表現に近づいたことは実感できる。
まだ,VR HMD特有の「潜望鏡を覗いている感」は拭えていないものの,解像感については,「VR HMDだから」という妥協を払拭できているように感じた。VIVE Pro 2は,新世代のPC向けハイエンドVR HMDとして,相応しい製品と言えそうだ。
オンラインイベント「VIVE CON JAPAN 2021」が6月11〜12日に開催HTC NIPPONは,6月11日と6月12日の2日間に渡り,オンラインイベント「VIVE CON JAPAN 2021」を開催する。参加費は無料だ。イベントでは,今回発表となったVIVEシリーズ新製品群の紹介と解説のほかに,VRソリューションの導入事例紹介や,開発者向けのセッションなどが行われる。
初日の6月11日はビジネスユーザー向けセッション,2日めの6月12日は開発者向けセッションが主体となるようだが,HTC担当者によれば,興味があれば両日とも一般の人でも参加してほしいとのことであった。
なお,参加にあたっては,VR HMDを所有しているユーザーは「VRChat」から,所有していないユーザーはYouTubeのライブ配信から視聴できる。詳細は公式サイトを参照してほしい。●VIVE CON JAPAN 2021:https://xlive.jp/viveconjp2021/
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