既報の通り、AMDは1月4日、新型のAPU(GPU統合型CPU)「Ryzen 6000 Series Mobile Processor(モバイル向けRyzen 6000シリーズ)」を発表した。搭載製品は2月から順次発売される予定だ。
搭載製品の本格展開を前に、AMDはモバイル向けRyzen 6000シリーズの説明会を2回に渡って開催した。この記事では、説明会の内容をもとに同プロセッサの概要を解説する。
【訂正:11時10分】初出時、CCXのL3キャッシュ容量の単位を誤っていました。おわびして訂正いたします
モバイル向けRyzen 6000シリーズはどんなプロセッサ?
モバイル向けRyzen 6000シリーズは、6nmプロセスの「Zen 3+アーキテクチャ」のCPUコアと、同じく6nmプロセス化された「RDNA 2アーキテクチャ」のGPUコアを統合したAPUである。
そう聞くと「今まで7nmプロセスで作っていた各種コアを6nmプロセスにしただけなのかな?」と思ってしまいそうだが、プロセスの微細化以外にも幾つかの改良を施しているという。
6nmプロセスの採用を含む「5層の改良」を実施
モバイル向けRyzen 6000シリーズの設計に当たって、AMDは消費電力当たりの処理パフォーマンスとプロセッサの面積当たりの処理パフォーマンスの2点を強く意識したようだ。高い処理パフォーマンスを実現するために、AMDは「プロセス」「コアアーキテクチャ(マイクロアーキテクチャ)」「SoC」「ソフトウェア」「プラットフォーム」の5層に渡って消費電力の最適化を施したという。
1層目の「プロセス」は、先述の通り6nmプロセスを採用したことを指している。先代と比べてわずか1nmの微細化ではあるが、それだけでも消費電力の改善にそれなりの効果を持つようだ。
50超の機能追加/改良を施した「Zen 3+アーキテクチャ」
2層目の「コアアーキテクチャ」は、Zen 3+アーキテクチャのことを指している。その名の通り、Zen 3+アーキテクチャはZen 3アーキテクチャをベースに6nmプロセス化した……だけではないという。
CCX(※1)の構造はZen 3アーキテクチャと同様で、最大8基のCPUコアで16MBのL3キャッシュを共有している。その上で、CPPC2(※2)の制御をスレッド単位で行えるようにするなどCCXに対して50を超える新機能の搭載や機能改良を施すことで消費電力の抑制とパフォーマンスの改善の両方を実現したという。
(※1)Core Complex:CPUコアとCPUキャッシュを統合したモジュール
(※2)OSが備えるスケジューラーの1つで、CPUコアに処理を割り振る役割を持っている
APUの各要素で細かい電力制御を可能に
3層目の「SoC」は、APU(SoC)全体に渡る電力管理体制の最適化を指している。
モバイル向けRyzen 6000シリーズでは、APUの電力管理をCPUコア(1基単位)、GPUコア、ディスプレイコントローラー、Infinity Bridge/ワイヤレス管理コントローラー、USB/サウスブリッジコントローラー……といった機能別に細かく分けて行うようになっている。これにより、各機能の非アクティブ時における消費電力をより抑制できるという。
ソフトウェアウェアレベルでも改善を実施
4層目の「ソフトウェア」は、デバイスドライバとファームウェア(UEFI)の改善を指す。
具体的には「電源管理フレームワーク(PMF)」を一新し、電源設定で「Balanced(バランス)」プロファイルを適用している場合でも、システムが処理している作業の内容に応じて動的に「Silent(静音性重視)」や「Performance(処理性能重視)」に切り替えるようになった。
「静かな場所で使うから」「処理性能が求められるから」といったように、シーンに応じて手動で電源設定を切り替える必要がなくなることが大きなメリットだという。
プラットフォーム全体での電力効率アップ
5層目の「プラットフォーム」は、APU以外のデバイスと協調することによるシステム全体の省電力化のことを指している。
デバイスと連携することによる省電力化の主な内容は以下の通りで、多くは内蔵ディスプレイに関連するものとなっている。
- 消費電力が1W未満のディスプレイパネルのサポート
- 「FreeSync PSR-SU」のサポート
- 画面表示のうち、動き(変化)のない部分の更新を行わないことで消費電力を抑制
- 「PSR-SU Rate Control」のサポート
- 全画面表示している動画のフレームレートを抑制することで消費電力も抑制
- eDPにおけるDSC(映像ストリーム圧縮)とFEC(前方誤り訂正)への対応
- eDP(内蔵ディスプレイ用DisplayPort)において映像伝送レーンを削減することで消費電力を削減
- 内蔵有機ELディスプレイにおける「Vari-Bright」のサポート
- 表示内容のカラーパラメーターを調整することで、一定の輝度を保ちつつ消費電力を抑制
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GPUコアはついに「RDNA 2アーキテクチャ」に
先代の「Ryzen 5000シリーズ」、先々代の「Ryzen 4000シリーズ」のGPUコアは、7nmプロセス化されたGCN(Graphics Core Next)アーキテクチャを採用していた。
プロセスの微細化による消費電力は実現したものの、AMDのGPUアーキテクチャとしては“3世代前”である。競合であるIntelが第11世代CoreプロセッサでGPUコア「Xe-LPアーキテクチャ」に移行して以来、GPUの性能面での優位性は薄れる傾向にあった。
そのことを踏まえてか、モバイル向けRyzen 6000シリーズは、GPUコアのアーキテクチャを現行最新の「RDNA 2」に変更した。2世代飛びである。GPUのブランドとしては「Radeon 600Mシリーズ」を名乗り、Ryzen 5はGPUコアが6基の「Radeon 660M」を、Ryzen 7/9はGPUコアが12基の「Radeon 680M」を搭載している。
RDNA 2アーキテクチャのGPUコアは、リアルタイムレイトレーシング(RT)処理に対応している。そのため、モバイル向けRyzen 6000シリーズは世界初のRTに対応するGPUを統合したCPUとなる。いわゆる「AAAタイトル」も、フルHD(1920×1080ピクセル)であればパワフルにプレイできるという。
PCIe 4.0とUSB4に対応 オーディオノイズキャンセリングも可能
デスクトップ向けでは「Ryzen 3000シリーズ」からCPU直結のPCI Express 4.0バスを搭載した一方で、モバイル向けを含むRyzenシリーズのAPUにはなかなかPCI Express 4.0バスが搭載されなかった。
それに対して、Intelでは第11世代Coreプロセッサでデスクトップ向け(開発コード名:Rocket Lake)、モバイル向け(開発コード名:Tiger Lake)共にCPU直結のPCI Express 4.0バスを搭載した。IntelのCPUはGPU統合型が基本なので、AMDはGPU統合型CPUにおいてある意味で“古くさい”状況が否めなくなっていた。
そのこともあってか、モバイル向けRyzen 6000シリーズは、APUとしては初となるCPU直結のPCI Express 4.0バスを合計20レーン搭載している。レーンの内訳は以下の通りだ。
- GPU接続用:8レーン
- NVMe規格のストレージ用:4レーン×2(うち4レーンはSerial ATAポートと排他)
- 汎用(はんよう):4レーン
加えて、モバイル向けRyzen 6000シリーズはRyzen初となるUSB4ポートにも対応している。これにより外付けのGPUボックスや超高速ストレージなども利用できるようになるが、USB4ポートを搭載するかどうか、搭載するとしてどのような機能に対応するかはシステム次第となる。
メインメモリはDDR5-4800規格またはLPDDR5-6400規格のいずれかに対応する。外部映像出力はHDMI 2.1規格に加えてDisplayPort 2.0規格にも対応できるようになっている。
さらに、モバイル向けRyzen 6000シリーズは「x86プロセッサとしては初めて」となるハードウェアベースのオーディオノイズキャンセリングに対応している。
第11世代以降のCoreプロセッサを搭載するノートPCでは、機械学習処理を高速に行うAPIを活用したノイズキャンセリング機能を実装している機種が増えている。モバイル向けRyzen 6000シリーズのノイズキャンセリングも機械学習処理を使うことは同様なのだが、ノイズキャンセリングの処理に“特化”しているため、AMDによると「競合の(IntelのAPIを活用した)ソリューションよりも効率的」だという。
ただし、このオーディオノイズキャンセリング機能も、対応するかどうかはシステム次第となる。
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「低消費電力におけるチャンピオン」
先述の通り、モバイル向けRyzen 6000シリーズは、消費電力当たりの処理パフォーマンスとプロセッサの面積当たりの処理パフォーマンスの改善にフォーカスを当てて開発された。そのこともあって、AMDはこのAPUのことを「低消費電力におけるx86プロセッサのチャンピオン」と自称している。
Intelの最新の第12世代Coreプロセッサ(開発コード名:Alder Lake)では、処理パフォーマンス重視の「Pコア」と、効率(省電力)重視の「Eコア」を併載することで全体のパフォーマンスを向上している。AMDはこの点に着目し、「(基本消費電力が)28Wだと競合はPコアが6基なのに対して、Ryzen 6000シリーズなら“完全なZen 3+コア”を8基使える」「(基本消費電力が)5Wだと競合はPコアがたった2基なのに対してRyzen 6000シリーズなら“完全なZen 3+コア”を8基使える」とアピールしている。
端的にいうと、Ryzen 6000シリーズなら、同じ消費電力でより多くの“完全なパフォーマンス”を発揮できるコアを搭載できるということだが、比較対象となる28Wの「Pプロセッサ」と15Wの「Uプロセッサ」を搭載する製品はまだリリースされていない。AMDの言う通りの優位性が発揮できるかどうかは未知数な面もある。
モバイル向け第12世代Coreプロセッサのうち、ハイエンド向けの「Hプロセッサ」だけは既に搭載製品が市販されている。そこで、AMDは「Core i9-12800HK」(Pコア:6基12スレッド、2.5GHz〜5GHz/Eコア:8基8スレッド、1.8GHz〜3.8GHz)と「Ryzen 9 6900HS」(3.3GHz〜4.9GHz、8コア16スレッド)で消費電力当たりのパフォーマンスを比較した。
それによると、Ryzen 9 6900HSの消費電力当たりの処理パフォーマンスはCore i9-12800HKの最大2.62倍となったという。「市場(ユーザー)はより長いバッテリー持ちとより薄い形状を好む」ことから、Ryzen 9 6900HSは「競合(Intel)が作ろうともがいている薄くて軽い形状に最適」だとしている。
ハイエンドレンジ以外のAPUは、現行の第11世代Coreプロセッサと比較が行われた。いずれも消費電力の低いRyzen 6000シリーズの方が性能が良い(同じ消費電力ならなおさら)という結果となっている。
先陣を切るのは「HSプロセッサ」
モバイル向けRyzen 6000シリーズを搭載するノートPCは、以下のスケジュールで順次登場する見通しだ。
- 2月中:HSプロセッサ(薄型ハイエンド向け)
- 3月初旬めど:HXプロセッサ(ハイエンド向け)、Uプロセッサ(超薄型向け)
- 3月中旬めど:PROプロセッサ(企業向け管理機能付き)
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