オンエアを終えた2020年夏クールTVアニメの中から、アニメライターが「今からでもぜひ観てほしい!」と熱望するオススメ作品をピックアップ。リアルタイムでの放送を見逃した方は、ぜひBlu-ray/DVD、サブスクリプションサービスでその魅力を味わってください。今回取り上げるのは、筒井康隆原作によるミリオンセラー『富豪刑事』を新たなストーリー・新たなキャラクターによってより華やかに、より大胆に描きアニメ化した話題作、『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』!
文 / 阿部美香
ただでさえ大胆設定の原作を、より振り切ったアレンジに挑んだ英断
「原作ありきのアニメ化」というのは、制作陣の腕が試される。原作をより忠実に具現化する方法もあれば、原作にはないオリジナル要素を加えて魅力を強化する方法もあるだろう。その足し算、引き算のバランスはじつに難しい……だからこそ、『富豪刑事』がこの2020年にアニメ化されると聞いたときは驚いた。
原作は、SF界の奇才・筒井康隆が1970年代中期に発表した作者初の推理連作短編集。大富豪の青年刑事が、過去を悔いた父が世のため人のために使えと差し出す巨万の富を惜しげなく使い、金の力で難事件を解決する……そんな痛快かつ大胆な設定で人気を集めた刑事小説だ。
アニメの放送は、フジテレビ深夜で大人向け良作アニメの数々を提供してきた“ノイタミナ”枠ほかにて。監督は『ソードアート・オンライン』や『僕だけがいない街』などの話題作で知られる伊藤智彦。原作が出版された昭和の時代とは違う現代において、「金持ちが刑事になって事件を解決する」という『富豪刑事』の昭和感あふれるシンプルな世界観を、制作陣がどう料理するかは想像がつかなかった。
だが、観始めてまず感心したのは、原作者の了承を得た上で改編されたという、じつに現代的な設定だった。時代背景ももちろん現代にリニューアル。原作では好青年の下っ端刑事だった主人公・神戸大助(CV:大貫勇輔)は、いかにも上から目線の“ツン”要素が目立つ無口なエリート警部に昇格している。
いっぽう、原作にはいないキャラクターとして、大助とは正反対の性格の熱血人情派刑事・加藤春(CV:宮野真守)を新たなバディとして投入。加藤が大助の教育係となるが、肝心の大助は加藤の言うことなど全く聞かずマイペースにコトを成していくという、真逆の凸凹コンビ感を増幅し、ふたりが事件を追うことでお互いへの信頼を高め、心を開いていくという王道のバディストーリーを誕生させた。グッと抑えた(宮野真守の役柄としても意外性のある)ナチュラルな演技も新鮮だ。
同時に、ストーリー展開にも王道を感じるオリジナル要素をたっぷりと投入。小さな事件の連鎖が、大助のあずかり知らぬところで起こっていた神戸一族の秘密の暴露に迫っていくというストーリーは、いかにも今っぽい社会派ドラマが匂い立つ。さらに、大助が抱える表には出さない悲しい過去、加藤の心に潜むトラウマ、神戸一家に翻弄される人々の悲哀が徐々にあぶり出されていく様は、じつにワクワクする。
とくに全11話の中盤から後半、神戸一族の様々な事実が明らかになっていく推理サスペンス的な展開は見どころだ。原作にはない群像劇的なストーリーを大胆にフィーチャーしたことも英断だが、その数々の改編を許す筒井康隆の懐の広さにも恐れ入る。細田守監督の『時をかける少女』や今敏監督の『パプリカ』も、筒井原作を大胆にリメイクし成功したアニメ作品だが、今思えば『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』の面白さにはそれらと無縁ではない部分がある。
シリアスなストーリー+絶妙に埋め込まれたハイテクとユーモア
もうひとつ、『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』における非常に魅力的な要素が、多彩なデジタルガジェットの存在。巨額の資金の使い道は、原作では容疑者を一同に介させるために街の宿泊施設を買い占めたり、容疑者にボロを出させるために巨大な会社を作ったり、というものだったが、今作での使い方は「ハイテク」に全振りだ。
神戸邸の地下研究所に常に待機し、時に潜入捜査もこなす神戸鈴江(CV:坂本真綾)は、最先端の技術も備えたガジェットを駆使して大助の捜査をサポートする才女。また、存在自体が新キャラの執事・ヒュスク(CV:興津和幸)はそもそも超高性能なAIだ。ヒュスクは大助が装着しているピアス型のウェアラブル端末と交信し、瞬時に情報を解析する。大助がピンチに陥ると、このふたりが一致団結して大助に情報を渡し、デジタルガジェットを送り込む仕組みが完備されている。
ドローンのような小型ロボット「サーブバグ」、ナノマシンを全身にスプレーすることで全身タイツのように装着、光学迷彩機能を持ち防御力・攻撃力を倍増させる「ASV(アクティブ・サポート・ベール)」、プラズマ銃「ヴォルテクスガン」、対空スフィアやミサイル弾が仕込まれたリュック型の装備(上図)、身近なものでは情報読み取り機能がついた「スマートサングラス」などなど、超高価なガジェットが随所に登場。大助が大富豪であるという説得力を、このハイテクなガジェット群がリアルに補完してくれている。
しかも、それらを操る大助と彼の仲間たちのカッコいいこと! 序盤こそ控え目なガジェットしか出てこないが、話数を重ねるたびに、「おいおいマジかよ!」と思う圧巻のマシンや、現代の最先端テクノロジーによるアイディアが見事に具現化。社会派推理ドラマと思って観ていたら、『007』シリーズのような(「ジェームズ・ボンドかっ!」と思わずツッコミたくなる)ド派手で痛快な金持ちっぷりを、シリアスなストーリーに絶妙に埋め込み、意外性とそこはかとないユーモアをリアルなSF感で彩っているのも、本作の魅力だろう。
個人的に特に好きなのは、第9話に登場する仕掛け。監視カメラの映像を消して逃げる人物の移動経路を絞り込むために、「スマートフォンを掲げて一回転しながら撮影した映像を送ると、先着10万名に10万円をプレゼントする」というキャンペーンを大助と鈴江が仕掛けるシーンだ。送られた情報を鈴江が解析し大助たちは見事捜査を続行するが、今の世の中ならあり得るテクノロジーの使い方に感心すると同時に、潜在的な危機感にも気づかされる。
原作付き作品のアニメ化には、こういうやり方もあったのか! と、目からウロコですらあった『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』。そういえば、タイトルの「Balance:UNLIMITED」とは、直訳すると「残高:無制限」となる(劇中では、大助が大金の使用をスタートする際にも使われている)。新しいモノを作るためのアイディアは、既存の縛りに囚われず、無制限でいいんじゃないの? と本作は語りかけてくれているような気もする。
TVアニメ『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』
FODほか動画配信サービス各社にて好評配信中
【スタッフ】
原作:筒井康隆『富豪刑事』(新潮文庫刊)
ストーリー原案:TEAM B.U.L
監督:伊藤智彦
シリーズ構成・脚本:岸本 卓
キャラクターデザイン:佐々木啓悟
サブキャラクターデザイン:田辺謙司
美術設定:藤瀬智康/曽野由大/末武康光
美術監督:佐藤 勝/柏村明香
色彩設計:佐々木 梓
メカデザイン:寺尾洋之
CG監督:那須信司
撮影監督:青嶋俊明
編集:西山 茂
音楽:菅野祐悟
音響監督:岩浪美和
音響制作:ソニルード
スタイリングアドバイザー:高橋 毅
ガジェットコーディネート:ギズモード・ジャパン
アニメーション制作:CloverWorks
【キャスト】
神戸大助:大貫勇輔
加藤 春:宮野真守
神戸鈴江:坂本真綾
清水幸宏:塩屋浩三
仲本長介:神谷 明
亀井新之助:熊谷健太郎
佐伯まほろ:上田麗奈
湯本鉄平:高橋伸也
武井克弘:小山力也
星野 涼:榎木淳弥
ヒュスク:興津和幸
Blu-ray&DVD
富豪刑事 Balance:UNLIMITED 1(本編#1~3収録)
発売中
Blu-ray完全生産限定版(¥10,000+税 ANZX-13101~02)
DVD完全生産限定版(¥8,000+税 ANZB-13101~02)
富豪刑事 Balance:UNLIMITED 2(本編#4~7収録)
2020年11月11日発売
Blu-ray完全生産限定版(¥12,000+税 ANZX-13103~04)
DVD完全生産限定版(¥10,000+税 ANZB-13103~04)
富豪刑事 Balance:UNLIMITED 3(本編#8~11収録)
2020年12月9日発売
Blu-ray完全生産限定版(¥12,000+税 ANZX-13105~06)
DVD完全生産限定版(¥10,000+税 ANZX-13105~06)
©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥
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