第11世代インテルCoreプロセッサー搭載の薄型ノートで脅威のパフォーマンスを体験
「近年、個人でも8Kや4Kの動画の撮影ができるようになった」。対応カメラはまだまだ高価という認識の方もいらっしゃるかもしれないが、選択肢はミラーレス一眼カメラやハイエンドのビデオカメラばかりではない。5G世代のスマホでは8K動画撮影に対応しているものも出てきているし、4K動画撮影に対応する機器となると、スマホ、アクションカム、家庭用ビデオカメラなど比較的安価なものがかなり存在する。
8Kや4Kの動画が撮影できる機器が身近になっても、8K/4K動画のハードルを上げる要素がまだ残っている。編集環境だ。最近ではYouTubeやSNSに動画を投稿することはめずらしくない。最終出力がフルHD解像度であっても、ソースが8Kや4Kならグッと表現の幅が広がるのだが、8K/4K動画の加工はかなりヘビーな処理なのである。8K/4K動画編集への対応をうたうPCはかなり高価で、筐体サイズの大きいデスクトップ型が主流だ。
手軽に8K/4K動画を楽しむのはまだ難しいのだろうか? しかし、朗報がある。半導体メーカーのIntelが最近リリースした新しい薄型ノートPC向けのCPUとなる「第11世代インテルCoreプロセッサー」が動画処理性能を大きく高めていることだ。
第11世代インテルCoreプロセッサーでは、同社がQSV(Quick Sync Video)と呼んでいる動画のハードウェアエンコーダの性能が引き上げられており、とくに8Kや4Kなどの負荷が高い動画のエンコードで威力を発揮するのだ。動画編集はエンコードがすべてではないが、エンコードは複雑な加工を行うプロの編集者からカット編集や解像度変更を中心に行うライト層まで幅広く必要とされる処理。この記事では、8K/4K時代のエンコードと最新CPUについて解説してゆきたい。
8Kを撮影できるスマートフォンが市場に登場、8K/4K動画動画撮影は身近な存在に
とくに処理が重くなる8Kの動画データについて、少し詳しく見てみよう。身近な撮影機材の例としてSamsung Electronicsのスマートフォン、Galaxy Note20 Ultra 5G(SC-53A)を用意した。この機種の背面カメラは8K(7,680×4,320ドット/24fps)での動画が撮影可能だ。
8Kの動画は1フレームあたり7,680×4,320ドットとなるので、4Kの3,860×2,160ドットに比較して4倍のデータ量となる。Galaxy Note20 Ultra 5Gのカメラで撮影した8K動画はビットレートが約80Mbps、HEVC(H.265)で圧縮されていても約1分間の動画で583MBというデータ量に達する。5分の動画を撮影すると軽く2.5GBを超えてくる計算だ。
このクラスのデータサイズとなると、動画を編集するPC側のハードルは決して低くない。詳しくは後述するが、6年前のハイエンドのノートPCでその約1分の8K動画を10Mbpsのビットレートにエンコードしようとすると、かかった時間は3,739秒、つまり約1時間という膨大な時間がかかった。その間CPUの負荷はほぼ100%に達するのでその間に何もすることができず、その間はウィスキーかコーヒーでも飲んで待つしかないのだ。
多くのノートPCに入っているIntel CPUの「QSV」が8K/4K動画時代のカギに
PCの演算処理の大部分をになっている部品、CPUは、さまざまな処理をこなせるように設計されているが、もともと動画のエンコードに特化したものではない。このため、CPUだけでエンコード処理を行なうと時間がかかることがある。とくに8Kのようなデータ量が膨大な場合には前述のように1分の動画に1時間の処理時間がかかるようなことが起こり得る。
そこで、近年ではCPUなどのプロセッサーの内部にハードウェアエンコーダというエンコード専用のエンジンが実装されている。たとえば解像度の変更や色空間変換といった動画のエンコードに必要な処理に特化した機能を持っており、CPUの基本機能だけ利用する場合に比べてより高速に動画を処理することができるのだ。
PC向けのCPUで大きなシェアを持つIntelのCoreプロセッサーには、QSV(Quick Sync Video)と呼ばれるハードウェアエンコーダが搭載されている。QSVはIntelが他社に先駆けて、2011年に発表した第2世代Coreプロセッサーで初めて搭載された機能で、この9月に発表された第11世代インテルCoreプロセッサーではその最新版が搭載されている。ブランドこそ同じQSVだが、年々機能が追加されており、ノートPC向けのCoreプロセッサーにおいては以下のように進化してきている。
簡単に言ってしまえば、世代によってサポートされるコーデックと解像度が異なっている。2016年に発表された第6世代Coreプロセッサー以前はH.264(AVC)までの対応で、H.265(HEVC)に対応するのは第7世代Coreプロセッサー以降の世代となっている。
さらに、最新製品となる第10世代Coreプロセッサー(Ice Lake)と第11世代インテルCoreプロセッサー(Tiger Lake)では8KのHEVCのエンコードにも対応しているほか、処理能力が引き上げられており、より短い時間で動画をエンコードすることが可能になっているのだ。
8K動画ではCPU処理より5.5倍高速で、7年前のPCに比較すると約26倍高速な第11世代インテルCoreプロセッサー
こうしたQSVのハードウェアエンコーダを利用してエンコードするには、動画編集ソフトウェアがQSVに対応している必要がある。最近ではそうしたソフトは多数あるのだが、その代表格はAdobeの動画編集ソフトウェアとなるPremiere Proだ。なお、最近ではPremiere Proの派生版としてよりライトなPremiere Rushが登場しているが、Premiere RushもQSVに対応しているが、今回はPremiere Proで検証した。
Premiere ProではQSVのハードウェアエンコーダを利用するには、編集後の出力時の設定で「ハードウェアエンコーディング」を指定すればよい。具体的には動画を編集した後、形式に「HEVC」(あるいはH.264でもQSVを使うことができる)を選択し、ビデオのタブからエンコード設定の「パフォーマンス」を探しその設定を「ハードウェアエンコーディング」にする。これで完了だ。
なお、HEVCでターゲットの解像度が8Kの場合は、前述のとおり第10世代Coreプロセッサー(Ice Lake)と第11世代インテルCoreプロセッサー(Tiger Lake)だけがQSVを利用することができる。それ以外の製品でHEVC/8Kを選んだ場合には「ご使用のハードウェアの現在の設定では、ハードウェアアクセラレーションはサポートされていません」と表示される。また、GPUのドライバーが古い場合にはPremiere Proが「ビデオドライバーはサポート対象外です」と表示する場合がある。その場合にはビデオドライバーを最新版にすると回避できる場合があるが、それでもこのメッセージが表示される場合の両方の可能性がある。後者の場合には「既知の問題を続行」というところを押すと、Adobeのサポート対象外として使えるが、QSVの機能が使えない場合もあるので注意したい。
今回こうしたPremiere ProのQSVの効果を見るために、過去のノートPCを含めて、複数の世代で実際にエンコードして効果を調べてみた。環境として用意したのは、最新世代の第11世代インテルCoreプロセッサーをはじめとしたノートPCで、以下のとおり。
いずれのPCも、登場した時点ではハイエンドの仕様。メモリは16GBで統一した。ストレージはNVM ExpressかSerial ATAかという違いはあるがいずれもSSDとなっている。
テストには3種類の動画を用意した。解像度が8K、4K、2Kの動画で、それぞれの動画の仕様は以下のとおりだ。過去のPCも含めてすべてその時点で最新版のWindows 10にアップグレードしてあり、GPUの負荷で性能が変わってくることを避けるために、ディスプレイの解像度はすべて2K(1,920x1,080ドット)に設定し、Windows 10の省電力の設定はパワースライダーで「最も高いパフォーマンス」に設定し(こうするとノートPCの性能はもっとも高くなる)、ACアダプタを接続した状態でテストしている。
8Kの動画をビットレートを変えてエンコードする場合にはQSVの効果は非常に大きい。とくに最新世代の第11世代Core、第10世代CoreはHEVCの8K動画のハードウェアエンコードに対応しており、その効果は非常に大きい。
具体的に見ていくと同じCore i7-1165G7を使ってCPUの基本機能による処理でエンコード(=ソフトウェアエンコード)した場合には795秒と実際の動画(60秒)の10倍以上の時間がかかったが、QSVによるハードウェアエンコードを行なうと144秒となっており、5.5倍以上高速になっている。昨年のモデルであるCore i7-1065G7と比較しても、約3割も速くなっている。これは第11世代インテルCoreプロセッサーのQSVが強化されたためだ。
ハードウェアエンコーダを利用できない過去のCPUとの差は顕著で、とくに7年前のCore i7-4650Uや5年前のCore i7-5557Uなどとは比べものにならないレベル。Core i7-4650Uの場合には8K動画のエンコードには実に1時間以上の時間がかかっているのに対して、最新のCore i7-1165G7は2分22秒と圧倒的に高速だ。
もう一つ指摘しておきたいのは、このエンコードをしている間、Core i7-1165G7とCore i7-1065G7という最新2世代のCPUの負荷は25%程度で、残りの75%は使える状態になっていた。つまり、8K動画のエンコードをしている間も、CPUの処理能力は余っているので、メールを送信したり、Wordで文章を編集したりということは可能ということだ。それに対して、Core i7-4650UなどではCPU負荷率は100%になっていたので、その間は何もすることができない。その1時間の間に、メールを処理したり、文章を作ったりということができると考えれば、生産性の差は非常に大きいと言える。
4K、2Kでも同様の傾向が出ている。4K/2Kでは第8世代Core(Core i7-8665U)でもHEVCのエンコードにハードウェアエンコーダが利用できるのだが、Core i7-8665UのハードウェアエンコーダはCore i7-1165G7のソフトウェアエンコードと4Kでは同程度、2Kではやや遅いという結果になっている点にまず注目したい。このことは、最新の第11世代インテルCoreプロセッサーの基本性能が大きく強化されていることを示している。
さらにハードウェアエンコーダを利用した場合にはCore i7-1165G7は、4Kで2.3倍、2Kで3.4倍もCore i7-8665Uのハードウェアエンコーダ利用時より速い。ハードウェアエンコードを利用する場合でも最新の第11世代インテルCoreプロセッサーではここまで差が付くのだ。動画のエンコードをするユーザーにとっては、そのハードウェアエンコーダの性能だけを理由に第11世代に乗り換える理由があると言ってもよいだろう。
こちらでも同じくCPUの負荷は低いままで、エンコードをしながら何かをしたい、そういう生産性の高さを重視したいユーザーであれば、間違いなく最新のCPUがお勧めだ。
動画の編集を行なうなら、第11世代インテルCoreプロセッサーを搭載した薄型ノートPCがお勧め
以上のように、IntelのCPUに内蔵されているハードウェアエンコーダは、とくに8Kや4Kなどの編集処理の負荷が高くなる場面で大きな効果があると言える。重要なことは、ノートPCを最新の第11世代インテルCoreプロセッサーを搭載したモデルに買い換えるだけで、これが利用できるということだ。グラフィックス処理専用のdGPU(外付GPU)を搭載するモデルでは、コストが増し、PCのサイズが大型化するのに対して、第11世代インテルCoreプロセッサーを搭載していれば、薄型のモバイルノートでも今回実証されたエンコード性能が実現できるのもメリットだ。
総じて、今回のベンチマークテストからは第11世代インテルCoreプロセッサーの動画エンコードにおける優位性が見て取れる結果となった。第11世代インテルCoreプロセッサーは8K HEVC動画のハードウェアエンコードに対応しているだけでなく、第10世代Coreプロセッサーからもエンコード性能が高速化されている。ハードウェアエンコード時はCPUの負荷は低いままで、エンコードしながら何かほかのことも可能という高い生産性まで実現している。
高解像度の動画撮影に対応したスマートフォンが市場に浸透してきたことで、動画の制作は多くの方にとってぐっと身近になってきた。そして、SNSにアップする、ビジネスや学校でのプレゼン資料に組み込むなど、動画を活用できるシーンは広がるばかり。その動画編集の基本となるエンコードを手軽かつ快適に行いたいのであれば、第11世代インテルCoreプロセッサーを搭載したノートPCへの乗り換えも検討してみてはいかがだろうか。
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