いまからちょうど25年前となる1996年3月22日、『バイオハザード』を遊んだプレイヤーは「振り返るゾンビ」の恐怖を味わっていた。そう、サバイバルホラーとして有名な『バイオハザード』シリーズは、2021年のきょうで25周年を迎えるのである。
本シリーズは2020年6月時点で全世界累計販売本数が1億本を突破しているうえ、ハリウッド映画にもなっており、リアルイベントや舞台化などさまざまな展開が行われている。カプコン自身も『バイオハザード』シリーズのことを「文化的象徴」と呼んでいたが、まさしく世界的に支持されるゲームのひとつといえるだろう。
そんな『バイオハザード』シリーズのすごさとは何か? シリーズ全体を眺めていると、作品の品質が安定しているのはもちろん、“3つの革命”を起こせたことがヒットの理由にあたるのではないだろうか。
■3Dグラフィックでホラーとゾンビを描いた『バイオハザード』
初代『バイオハザード』は1996年3月22日にPlayStationで発売された。PlayStationの時代はゲームが3Dグラフィックで描かれるようになったばかりであり、新しいハードで挑戦的な作品がたくさん作られていた。ゾンビをはじめとするさまざまなクリーチャーが出現する不気味な洋館からの脱出を目指す本作も、意欲的なゲームのひとつだったといえよう。
カプコンとしても3Dグラフィックのゲームを作るのは初めての経験であり、模索しながらの制作であった。3Dグラフィックになったとはいえ、何をどうプレイヤーに遊んでもらえばいいのか? そこで『バイオハザード』は、『アローン・イン・ザ・ダーク』という作品からヒントを得る。
『アローン・イン・ザ・ダーク』はフランスのゲーム会社インフォグラムが開発した作品で、3Dグラフィックを活用したアドベンチャーゲームとして先鞭をつけていた。『バイオハザード』はこの作品から影響を受けており、たとえば固定されたカメラからキャラクターを見て動かすなど、当時のゲーム機の性能で3Dグラフィックのゲームを成立させる手法を取り入れている。
キャラクターの操作はいわゆる「ラジコン操作」。左右に入力するとキャラクターが旋回するので角度を決め、そのあとに前後に動かしていく。いまのゲームは移動したい方向にスティックを入力すればいいだけだが、そういう直感的な操作もできない作りだったのだ。
■困難な操作がホラー演出につながった
しかし、これがホラーと非常に相性がよかった。カメラが固定されているため視界が悪く、ゾンビの声がしても居場所がわからない。操作も容易ではないので、クリーチャーに追われるとパニックになってしまう。そんな状況で洋館から脱出するために謎を解かねばならないわけで、操作の難しさがむしろ恐怖を引き立てたわけだ。
このほかにも、ゲームのロード時間をドアの開閉画面でごまかしつつ恐怖心をくすぐるなど、ゲームの問題点をうまくホラーで隠すことができていた。また、「ゲームとゾンビの相性の良さ」を日本で知らしめたのも本作であろう。さすがにゾンビをはじめて出したゲームではないものの、元・人間であるゾンビをプレイヤー自身が倒してしまえる恐怖と興奮は、特別なものだと教えてくれた。
とはいえ、いまになって初代『バイオハザード』を見るとちょっとおもしろい部分もある。たとえばムービーでは実写パートも採用されているのだが、あまり予算が潤沢でなさそうだと感じられる内容だった(しかも、映像の一部は多摩川の周囲で撮影されているという)。また、EDテーマは渕上史貴の「夢で終わらせない」といういかにもJ-POPらしい楽曲が採用されており、『バイオハザード』シリーズが最初からものすごい大作だったわけではないと理解できるのだ。
それでも、『バイオハザード』はまだ馴染みの薄い3Dグラフィックでホラーをうまく作り上げており、当時のプレイヤーたちにとって驚くべき体験をもたらしたのである。発売直後の販売本数は20〜30万本だったが、1年後には100万本を達成。最終的には全世界で275万本のヒットを記録した。
■ホラーから「狙って撃つゲーム」になった『バイオハザード4』
ホラーで人気になった『バイオハザード』だが、続編になると少しずつ雰囲気が変化していく。ジョージ・A・ロメロがTVCMを監督して話題になった『バイオハザード2』は、むしろホラー映画よりアクション映画のような雰囲気が強くなる。たとえば、道中でボスが何度も出てきたり、最後には主人公が「アンブレラ(ウイルスを撒き散らす悪い企業)をぶっ潰してやる!」と戦う意志を見せるのだ。
この傾向はその後の作品でもよく見られ、『バイオハザード3 LAST ESCAPE』では「緊急回避」というタイミングよく操作することで敵の攻撃を避けられるアクションが追加された。あるいは『バイオハザード CODE:Veronica』では、クリーチャーの心臓をスナイパーライフルで撃ち抜くなんてシチュエーションが出てくるようになったのである。
しかし、もともと「操作しづらくカメラも見づらいからこそ成り立つホラー」だったわけで、『バイオハザード』シリーズはいまいちアクション映画のようにはなりきれていなかった。そこで革新を遂げたのが2005年発売の『バイオハザード4』だ。
■挑戦的なゲーム内容
初代『バイオハザード』や『バイオハザード4』でディレクターを担当した三上真司によると、この『4』では「狙って撃つアクション」を最も重視したという。具体的にはラジコン操作と固定カメラが廃止され、海外で特に人気のシューター(銃を撃って戦うタイプのゲームジャンル)を参考にした作りになり、よりなめらかに動かせるようになった。
「相手を銃で狙い撃つゲーム」は操作に慣れないと難しく感じられるのだが、構えてから銃を撃つようにする(移動と銃撃を同時に行なわずシンプルにする)形式を採用したり、レーザーサイトで狙っている場所が可視化されたりと、細かい部分でプレイヤーを突き放さないような作りになっている。同時に『バイオハザード』シリーズの特徴であった謎解きも簡易なものになり、大きく様変わりしたのだ。
この挑戦的な内容は見事に受け入れられ、長く愛されるタイトルとなった。『バイオハザード4』は複数のゲーム機に移植され、全機種累計で約910万本のヒット。国内外のゲーム業界にも影響を与えるタイトルとなったのである。
■VRという革新性を得た『バイオハザード7 レジデント イービル』
『バイオハザード』シリーズはマンネリと革新を繰り返す。前述のように『バイオハザード4』は偉大な作品になったが、その後の『バイオハザード5』や『バイオハザード6』はむしろ海外で人気のシューターを単純に真似たような、少し古臭い作品のようになってしまう。これら作品は決してクオリティが低いわけではないし、販売本数的にはかなりの数を記録しているのだが、それでもゲーム業界の進歩はめざましく、あっという間に目新しさは失われていく。
そのままではシリーズから徐々に人が離れてしまうわけだが、2017年に発売された『バイオハザード7 レジデント イービル』で、またもや革新を起こしてくれる。『バイオハザード4』以降は三人称視点(キャラクターの後ろにカメラがある)形式だったのだが、今度は主観視点になったのだ。
いわゆるFPS(ファーストパーソンシューティング、一人称視点で銃を撃つゲーム)にあたるジャンルに変化したわけだが、なぜこれを選択したのだろうか? 理由のひとつとして、本作はホラーに戻るという原点回帰を謳っていたからだ。三人称視点よりも主観視点のほうが見える範囲が限られていて没入感もあり、恐怖を掻き立てられる。しかし最も重要なのは、全編VR(バーチャルリアリティ)対応という部分だ。
■最新技術を活かしつつ、原点回帰も果たした傑作
VRは没入感が味わえるのが特徴であり、かつプレイヤーの主観的な視点で描かれるケースが多い。つまり『バイオハザード7 レジデント イービル』は、VRという最新技術を活かしつつ、かつホラーゲームに戻るという原点回帰のふたつを同時に目指したのである。
VR機器はいまでこそ徐々に馴染みつつあるし、『バイオハザード7 レジデント イービル』が対応したのは比較的人気のあるPlayStation VRだったが、それでもまだ当時は一部の人が遊ぶものでしかなかった。あるいは対応しているタイトルがあっても規模が小さいケースも多かったのだが、カプコンは『バイオハザード』シリーズという大規模なタイトルで全編対応をしたわけだ。これはなかなかの冒険といえただろう。
結果として本作は大成功。VRで遊べばこれまでにない恐怖を体験できるうえ、ゲームとしてのクオリティも見事なもので、非常に新鮮な体験になっていた。全編VR対応のゲーム自体が少ない当時であれば、高く評価されるのもまったくおかしくない。
『バイオハザード7 レジデント イービル』の売り上げは全世界累計で850万本を達成。この記録は、カプコンのゲーム作品の売り上げで歴代2位となる(移植を除く作品単体の販売本数で計測した場合)。『バイオハザード』シリーズは長寿シリーズになったあとでも驚くべき作品を作り上げ、それが評価にも数字にも現れているのだろう。
■実写映画やミュージカルなど『バイオハザード』の層の厚さ
『バイオハザード』シリーズは上記のような革新を起こしている部分に目がいきがちだが、定期的に作品を出している部分も見事であろう。銃型コントローラーで敵を撃つガンシューティングの『バイオハザード ガンサバイバー』シリーズ、オンラインゲームになった『バイオハザード アウトブレイク』シリーズ、あるいはゲームボーイカラーでサバイバルホラーを描いた意欲作『BIOHAZARD GAIDEN』など、スピンオフなどを含めるとシリーズ全体ではゲームだけで30作品以上になる。
そして、本シリーズはゲーム以外の展開にも積極的である。たとえば、ミラ・ジョヴォヴィッチが主演する映画『バイオハザード』シリーズは有名だろう。本作の累計興行収入は、日本国内では200億円、全世界では10億ドルを突破している。また、ゲーム版の世界設定を活かした実写映画が製作中で、新たなCG映画や実写TVドラマシリーズも展開される。
このほかにもミュージカル、パチスロ、体感型ゲームなどさまざまな形で展開が行われており、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン向けのアトラクションも存在する。『バイオハザード』シリーズは良いゲームを軸に、人気を集めたIPとしてさまざまな展開を行うからこそ、根強く支持されるのだろう。
■『バイオハザード』の魅力は“安定と革新”ではないか
さて、改めて「『バイオハザード』シリーズの強さは何か?」と考えてみると、「安定しているうえに、しばしばホームランを打つ」ところだろう。ただ単に人気が出たものを続ければいつかマンネリ化するが、本シリーズではそれを打破する作品が定期的に出てくるのだ。
しかも、革新的な作品を作る際には従来のものを思い切って捨ててしまう。最初はサバイバルホラーゲームだったのに、いつの間にか銃を撃つゲームになり、それで人気が出たと思ったら今度は全編VR対応でファンを驚かせてくれる。とはいえ挑戦ばかりだとリスクも大きくなるわけで、スピンオフなどその他の展開で層を厚くしているのだ。いわば、挑戦と安定のバランスがいいのではないか。
2021年5月8日には、シリーズ最新作となる『バイオハザード ヴィレッジ』が発売予定。PS5やXbox Series X、つまり次世代機のスペックを活かしたビジュアルやサウンドが特徴となっている。また、シリーズの傑作と呼ばれる『バイオハザード4』をオマージュしているところもポイントだ。
『バイオハザード』シリーズは、これからも安定したおもしろい作品を作り続けてくれて、それに飽きたころにまた革新的な傑作を見せてくれるのだろう。
(渡邉 卓也)
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