SynologyのNASが専用OSの最新バージョンでさらに進化した。
過去最大のアップデートとされる「DSM 7.0」では、UIデザインの刷新に始まり、サブシステムの全面的な見直しが実現され、NASとして求められる信頼性やセキュリティ関連の機能が大幅に強化された。ビジネスシーンでの運用管理性能がワンランク上がった最新NASの実力に迫ってみた。
NASとしての3つの基本を強化信頼性、運用管理、セキュリティ対策
新しくなったDSM 7.0は、NASとしての本来の実力と、運用管理の手軽さが磨き上げられたバージョンという印象だ。
ビジネスシーンの多様化に伴ってNASも多機能化が図られ、バックオフィスを担うマルチサーバーという側面も見られるようになっていた。
今回のDSM 7.0では、OSとしての根本となる信頼性や管理面が改善され、セキュリティ対策も向上したことで、どちらかというと「ストレージ」というNASとしての本分が、徹底して強化されている。
そして、今回のアップデートには、「自動修復による信頼性の向上」「RAID 6やSSDキャッシュでのパフォーマンス強化」「管理機能とセキュリティの拡充」「テレワークでのファイル共有もしっかり管理」の4つのポイントがある。
ビジネスシーンで利用されるデータが増加、多様化する一方で、社会的な状況の変化などから、オフィスや在宅環境など場所を問わず、データや文書などのリソースを安全かつ快適に利用できる環境が求められるようになってきた。
こうした変化に対応すべく、「社内設置のファイルサーバー」というかつての姿から、ハイブリッド環境でのストレージプラットフォームとしての進化をより確実にすべく、OSの根本である信頼性や管理機能、セキュリティ対策などの見直しが図られたことになる。
言い方を変えると、根本の信頼性や管理能力が上がったことで、NASでありながら、クラウド的なメリットをより多く享受できるストレージになったという印象になる。
もともと、ユーザーの利用シーンにおいては、NASのデータを同期するなど、クラウド的な使い方ができる製品でもあったのだが、こうしたクラウド的な容易さが、DSM 7.0によって運用管理の面からも強化されている。
リモートワークが定着しつつある現在でも、中小規模の組織やスモールオフィスなどの環境では、運用管理の問題からオフィスという場所に縛り付けられている状況が絶えないわけだが、こうした状況を改めて見直すきっかけとなりそうな存在だ。
実機で新OS「DSM 7.0」をテスト
それでは、実際にDSM 7.0を試してみよう。
今回の検証では、Synologyからリリースされている「DiskStation DS720+」というコンパクトな2ベイタイプのNASと、Synology純正HDDを利用した。
コンパクトと言っても、クアッドコアで2.0GHz(最大2.7GHz)駆動のCPUであるCeleron J4125と、2GBのメモリ(最大6GBへ増設可能)を搭載している上、内部に用意された2つのM.2 SSDスロットにより、SSDキャッシュも利用できる高パフォーマンスモデルだ。背面には、リンクアグリゲーション(LAG)構成も可能な1Gbps LANも2ポート搭載されている。
このモデルに、Synology純正のHDD「HAT5300」の8TBモデルを2台装着した状態で利用した。DS720+との互換性が確実に確保できる上、5年の長期保証が受けられ、DSMによる自動ファームウェア更新などにも対応しているため、より安心して利用できる。
新しくなったDSM 7.0の印象は、立体感が増したという感じだ。アイコンの陰影が深くなり、ウィンドウも角が丸くやわらかな印象になった。シンプルながら安心感のある好印象のデザインだ。
こういったデザインセンスの良さは、NASベンダーの中でも頭1つ抜けた存在と言って良いだろう。
それでは、さらに中核となる新機能をチェックしていこう。
1.自動修復による信頼性の向上
まずは、信頼性とパフォーマンスの強化について見ていこう。
ストレージ管理に利用する「Storage Manager」が強化された。ドライブの装着場所などを実機のグラフィックで確認できるなど、直感的な管理ができるようになったのもメリットだが、それよりも注目したいのは、以下のような機能によって信頼性が向上している点だ。
これらの改善によって、ユーザーはデータの消失やダウンタイムを避けられ、管理者は常態的な監視やオンサイトでの保守作業の一部から開放されることになる。
ドライブを簡単に交換可能
搭載ドライブに問題が発生しそうなことが検知されると、別ドライブにスペアとして搭載されている未使用のドライブへ簡単な操作を行うだけで交換できる。このとき、アレイ全体を再構成するのではなく、該当ドライブをスペアに複製するため、ダウンタイムなし、かつ短時間での交換が可能となっている。
従来のホットスペアも機能が強化された。従来のホットスペアではドライブが故障した場合に交換されたが、DSM 7.0では、故障する前に、劣化を検知した状態で自動的にドライブを交換できる。
つまり、ユーザーも管理者も故障による恐怖に対し、必要以上に怯えなくて済むようになるわけだ。
劣化を自動的に修復可能
修復可能な劣化への対応も強化された。従来は劣化の修復のために全容量に対して整合性の確認が必要だったが、DSM 7.0では使用済みボリュームのみのチェックで修復ができるため、短時間での対応が可能となっている。
しかも、RAID Groupをサポートするモデルであれば、こうした操作は管理者の手を煩わせることなく自動修復可能だ。管理画面にログインしていちいち操作しなくても、自動的に修復やドライブ交換が行える。
なお、独自の自動RAID管理システム「SHR(Synology Hybrid RAID)」を利用していると自動修復の機能は利用できないので注意したい。
2.RAID 6やSSDキャッシュでのパフォーマンス強化
ストレージとしてのパフォーマンスも向上している。具体的には、RAID 6やSSDキャッシュの改善が実施されている。
領域再利用のスケジュール
削除された領域など、未使用領域を再利用するための処理を行うスケジュールを、ユーザーの利用が集中する時間以外に設定することで、パフォーマンスの低下を防げる(Btrfsの場合)。
RAID 6のパフォーマンス向上
今回試用した2ベイモデルでは関係ないが、より多くのベイを利用可能なモデルでは、RAID 6構成時のパフォーマンスが強化されている。同社のテストによると、RAID再同期が80%も高速化され、通常のランダムI/Oや劣化の修復のパフォーマンスも70%ほど速くなっているという(Broadwell/Purley/Grantleyの各CPU搭載モデルでの検証結果)。
SSDキャッシュの強化
BtrfsのメタデータをSSDキャッシュに格納(ピニング)することで、小さなファイルへのアクセス速度やレスポンスを向上させることができる。バックアップ系のアプリやスナップショットの作成などが、同社の検証によると最大3.8倍速くなったという結果もある。
また、ヒット率の低いキャッシュをHDDに書き戻す際のパフォーマンスも改善され、従来のDSM 6.2と比べ、書き戻しが3倍ほど速くなっている。
3.管理機能とセキュリティの拡充
前述した自動修復だけでも、DSM 7.0によって救われる管理者は多いが、管理者を助けてくれる機能は、さらに搭載されている。
集中管理で管理者が楽になる「Active Insight」
複数の拠点や、フロアにあるNASの状態を一見監視できる「Active Insight」が利用可能になった。
ストレージ使用率、ボリュームごとの使用統計、CPUやメモリの使用率、温度、スループットなどのデータを、最短1分ごとに24時間365日収集し、その状況をPCのウェブブラウザーやスマートフォン向けアプリ(Active Insightアプリ)で、まとめて確認することができる。
これにより、離れた拠点にあるNASの使用状況を把握したり、問題が発生した場合でもいち早く確認できる。また、問題の原因もある程度把握可能だ。
しかも、イベントのカスタマイズが可能になっており、管理者が決めたしきい値を超えた際に、誰に通知を送るかといった設定も可能だ。チームで管理していたり、地方の管理を現地の担当者に任せている場合などは、管理者だけでなく、こうした連携するユーザーにも必要に応じて通知を送ることができる。
管理者が毎日何十台もNASの状態をチェックしたり、トラブルの種類や場所に合わせて連絡手段や相手を考えなくて済むというわけだ。
アイデンティティを守る
DSM 7.0では、セキュリティの基本となるID管理機能も強化されている。
従来のDSMでも多要素認証はサポートされていたが、そのプロセスと方法が改善され、専用の「Secure SingIn」アプリ(ソフトウェアトークン)、または汎用的なFIDO2(USBキー、Windows Hello、Touch ID)によるサインインに対応した。
これにより、パスワードレスでのサインインが可能になっており、DSMへのサインイン画面でユーザー名を指定後、Secure SingInアプリに表示される通知からサインインを承認するだけで、NASの画面にアクセスできるようになった(多要素認証でパスワードを併用することも可能)。
旧来のNASは、オフィス内のPCからローカルで使うものであったため、境界を越えたアクセスがあまり想定されていなかった。しかし、テレワークの普及などにより、ユーザーがどこにいても利用する可能性が高まった。
DSM 7.0では、こうした状況を踏まえ、IDをしっかりと保護することで、境界に関係なく、NASを保護できるようになっている。
4.テレワークでのファイル共有管理
テレワークを前提としたコラボレーションのセキュリティについても、しっかりと強化されている。
SynologyのNASでは、「Synology Drive」という機能を利用することで、NAS上のフォルダーをユーザーのローカルPCと同期できるようになっていて、いわゆるクラウドストレージ的な使い方ができる。
DSM 7.0では、この管理機能である「Synology Drive Adminコンソール」が強化されており、接続中のデバイスを一覧表示したり、アクセス数が多いファイルの一覧を表示できるほか、ストレージ使用量の傾向をもとに、容量拡張の検討などが行えるチャートの表示もできるようになった。
リモートワークや拠点など、見えなくなりがちな同期されたストレージの利用状況を可視化できるようになっている。
独自クラウドサービス「Synology C2」と連携して、さらに便利に
このように、DSM 7.0には数々の新機能が実装されているが、このほか同社が提供するクラウドサービス「Synology C2」を併用することで、さらにNASを便利に活用することもできる。
現在、順次サービスの提供を開始している状況で、本稿執筆時点で国内では「C2 Password」と「C2 Transfer」が利用可能だが、今後は、DSM 7.0は、こうしたサービスをシームレスに連携させることが可能だ。NASの用途を広げたり、安心して利用できるハイブリッドストレージ環境を構築したい場合には、利用を検討するといいだろう。
- C2 Password(個人向け)
ログイン情報や個人情報を安全に保存できるサービス。NASがなくても無料でパスワード管理などに利用可能 - C2 Backup(個人/法人向け)
WindowsデバイスやMicrosoft 365のデータをバックアップできるサービス。国内でのリリースは今後を予定 - C2 Storage(個人/法人向け)
NASのバックアップ先として利用できるクラウドストレージ。拠点間データ共有にも利用可能 - C2 Transfer(法人向け)
エンドツーエンドでの暗号化とユーザー認証を使って安全にファイルを転送できるサービス - C2 Identity(法人向け)
ユーザーアカウントとデバイスを管理できる一元化されたディレクトリサービス。国内でのリリースは今後を予定
「Synology C2」の各サービス
クラウドストレージのメリットも採り入れたハイブリッドストレージへ
以上、新しくなったDSM 7.0を実際に試してみたが、見た目はもちろん、中身もかなり改善されている印象だ。
全体を通して言えるのは、クラウドサービスのようなメンテナンスの容易さや管理のしやすさをローカル設置型のNASで実現できている点と言えるだろう。機能面やユーザーの使い勝手だけでなく、運用管理の手間を省く工夫が随所に施されており、意識せずに使えるストレージにまた一歩近づいた印象だ。
ローカルとクラウドを併用するハイブリッドストレージとしての進化の1つの完成形と言ってもいい完成度なので、新しくなったDSM 7.0を機に、Synology NASの導入を検討するのもいい選択と言えそうだ。
(協力:Synology Japan株式会社)
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