「サイバーパンク2077」のある重要なシーンで、思わず腹が立ってしまった。
夫とわたしは毎晩、このイライラするバカげたゲームをプレイしている。なぜなら、ほかにすることがあまりないからだ。バグや不安定なシーンに遭遇するたびに、わたしたちのひとりがコントローラーを投げ捨てて「もう二度とやらない!」と叫ぶ。そして翌日の夜、もうひとりがコントローラーを再び拾い上げる。
このゲームの問題点がはっきりとわかった瞬間を、いまは正確に思い出せる。ある重要なシーンで、台本上は明らかに胸が痛むであろう状況があったときのことだ。わたしはさまざまな感情、少なくとも何らかの感情がわき上がるのを待った。
しかし、感情はわき上がってこなかった。悲しい感情がわき上がる代わりに、退屈を感じ始めたのである。そして、うんざりした。少し操られている気もした。
そして最悪の瞬間に、バグが発生したのだ。「ちょっと待って、あれはチップじゃない」と、夫は言った。「銃だ。こいつはいま、耳から銃を取り出したぞ」
こうしてわたしは自分の仕事部屋に駆け込み、ノートPCを開いてこの原稿を書き始めた。わたしはこのゲームにうんざりしている。まともにプレイできないからではない。とにかくストーリーがよくない。こんなものをつくるために多くの開発者を酷使する必要はなかった。
「ウィッチャー3」との大きな違い
わたしは自分がゲーマーだとは思っていない(担当編集は「間違いなくゲーマー」だと言う)。数年前のクリスマス、わたしは夫に任天堂の家庭用ゲーム機「Nintendo Switch」をプレゼントしたのだが、それ以来ふたりで一緒にプレイしてきた。
わたしは友達と「マリオカート8 デラックス」をプレイするのが好きだ。「ドーナツ カウンティ」は面白かった。「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」は息をのむ美しさだったが、さまざまな色の馬を集めるためにほとんどの時間を費やしてしまった。
それだけだった。しかし、それもNetflixのドラマ「ウィッチャー」の第1話を見たあと、気まぐれで「ウィッチャー3 ワイルドハント」をダウンロードするまでの話である。
オープニングムーヴィーから、わたしはくぎ付けになってしまった。「ウィッチャー3」は評判通りのゲームである。主人公のゲラルトは幅広いスキルを備えた魅力的なキャラクターで、舞台となる大陸は広大で細部まで描写され、危険に満ちている。これは『ロード・オブ・ザ・リング』の世界で展開される『LAW & ORDER:性犯罪特捜班』なのだ。
しかし、「ウィッチャー3」を気に入った理由はほかにある。空想的なモンスターが登場するのだが、それが本物のように感じられたのだ。そしてとても素晴らしいストーリーなので、多くのバグやグリッチ(誤動作)があっても(発売から数年たったいまでも!)それを許してしまう。
「ウィッチャー3」は小説のようなペースで物語が展開する。本質的には父親が主人公のゲームだ。ゲラルトは妻と娘を探している。これほど感情移入しやすいストーリーはない。
その長さにもかかわらず、エレガントで無駄がないゲームだ。行方不明のイェネファーが登場するドラマティックなオープニングムーヴィーと、不気味な子どものシリに対するゲラルトの愛情がわかる訓練チュートリアルがあり、最初の数分でゲームのストーリー設定を理解できる。ストーリーはドライで、面白くて、ときどきグロテスクで、人間の本性への共感的な深い理解に基づいている。
例えば、「家庭の事情」(自堕落な男爵が再び家族と一緒になれるようにゲラルトが手伝うサイドクエスト)では、わたしは笑い、泣くと同時に、少し気分が悪くなった。それはいままでゲームに望んできたすべてだった。「ウィッチャー3」は、わたしにとってかけがえのないタイトルだ。同様の新作ゲームがすぐに手に入ると考えると、めまいがした。
サイバーパンク2077のキャラが「嫌い」な理由
ゲーマーではない立場からすると、「サイバーパンク2077」のパフォーマンスの低さに関する議論は論点がずれているように感じられる。結局のところ「ウィッチャー3」はグリッチだらけであり、その多くは内輪ネタとして定着している。ゲラルトの馬のローチが、ありえない場所で立ち往生し続ける様子も笑える。
初めてサイバーパンク2077をプレイしたとき(クラウドゲームサーヴィス「Stadia」でプレイしている)には、最初の5分で自分のクルマが岩で立ち往生してしまった。「またローチになっちゃった!」と、思わず同僚に言ってしまったほどである。
サイバーパンク2077は、その原作が理由で合わないのかもしれない。テーブルトークRPG「サイバーパンク2077」のベースとなっている画期的な小説『ニューロマンサー』は、熱狂的で複雑な内容だと誰もが言う。しかし、1週間半が過ぎてもまだ購入していない。
本来なら好きになるべきキャラクターも含め、サイバーパンク2077のすべてのキャラクターが嫌いだ。ゲラルトのおちゃめな仲間である吟遊詩人ダンディリオンとは異なり、サイバーパンク2077で相棒となるジャッキー・ウェルズには、Vへの疑わしい忠誠心と、ミスティという名の人物への中途半端な愛情以外に、親しみを感じさせる特徴はない。
そして、この複雑なストーリー展開を把握できない。どのような行動が最終的な結果にプラスになるのかマイナスになるのか、まったく見当がつかないのだ。キアヌ・リーヴスが演じるジョニー・シルヴァーハンドがわたしの頭を乗っ取るまで、ただ時間をつぶしているだけのように感じる。
ジョニー・シルヴァーハンドも嫌いだ。わたしは彼を嫌いながら、同時に彼のカリスマ性に惹かれると想定されていることはわかっている。なにしろキアヌ・リーヴスが演じているのだ。
実行する理由がわからないクエスト
しかし、ジョニー・シルヴァーハンドには魅力を感じない。タバコを求めて愚痴るこの甘やかされて成長した子どものままのジョニーにも、そして20年前はおしゃれだったかもしれないが、いまではモルモン教徒のママブロガーがショッピングセンターでのクリスマス写真の撮影用に身につける衣装のように見えるバカげた90年代のレザーレギンスにも、まったく共感を覚えない。
ほかに何をすべきかわからないので、ひたすらクエストトラッカーを追うが、どれも実行する理由がわからない。ウィッチャー3のように、行方不明の子どもや狼男の愛を求めて争う2人の姉妹など、すぐに心の琴線に触れるサイドクエストとは異なる。
サイバーパンク2077ではレイスの隠れ家を偶然発見し、それから男を撃った。しかし、なぜわたしは撃ったのか? レイスとは何者なのか? 集めるべき証拠は何なのか? わからないし、どうでもいい。
「ウィッチャー3」と同様に、決断を下すには時間制限があるが、どの決断も結果に関係ない。例えば、ほんの数秒で自分のキャラクターを蘇らせる皮下注射をするかどうか決断する必要のあるシーンがあった。単なる強情さから、わたしはその時間を使い果たしてしまった。そして数秒後、キャラクターは死んだ。
ゲームを進行するために皮下注射をしなければならないなら、なぜわたしに何らかの決定権があるふりをするのか? 単に人工的に労力を注ぎ込んだ感じを生み出すためなのか?
何時間もの骨折り作業
昨夜、わたしは巨大で非常に詳細に描写されたジャンクヤードの中を、20分かけてよじ登り続けた。そしてなし遂げたのは、道を見つけ、誰かを撃ち、バカげたグレムリンのようなクルマを奪うだけである。
それはわたしを怒らせるには十分だった。このゲームの多くの部分と同じように、中身がほとんどないこの手の込んだトランプで組み立てた城をつくるために無駄に費やされた時間、資金、労力を考えると、頭と心が痛くなった。
ウィッチャーに免じて、そしてわたし自身のために、多くを受け入れる準備ができていた。グリッチだけでなく、90年代のロック親父の衣装、バカげたスラング、「ストリートクレド」を獲得するためのドン引きするような目標など、全般的な痛みすべてを受け入れる準備ができていたのだ。
トランスジェンダー嫌悪と人種差別の批判にもかかわらず、わたしはプレイした。キャラクターがひどいヒスパニック系のアクセントで「クソアマッ!」と金切り声を上げるたびに青ざめながらプレイした。それは明らかに、おかしいくらい控えめに「ふむ」や「クソッ」とつぶやくゲラルトのように、ミームになるような場面を卑怯につくり出そうとしている。
しかし、企業が全権を掌握し、あまりに広範囲に身体改造を施す時代に、苦しみもがきながら意識の意味や年齢を重ねる意味、人間であることの意味を求める主人公もいない。魂のこもっていない「サイバーパンク2077」は、ロックバンド「Lit」のヴォーカルのコスプレをしたキアヌ・リーヴスが頭の中でいらいらさせるだけの、何時間もの骨折り作業にすぎないのだ。
サイバーパンク2077は、半身サイボーグの人間がテーマのゲームかもしれない。だが、わたしにはまだゲームに多くの人間性を望むだけの人間らしさがある。
※『WIRED』によるゲームのレヴュー記事はこちら。
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