「マイクロソフトが任天堂を買収する」という、何度も流布してきた噂がある。根も葉もない流言もあれば、根拠となる逸話が飛び出すことも。似たような話題が繰り返し報道される奇妙なサイクルができあがっているが、最近になって新たなエピソードが明らかになったようだ。海外メディアBloombergに掲載された、初代Xbox制作秘話にて伝えられている。
過去に大きく報道された「買収話」のひとつは2004年のニュース。ドイツの経済誌WirtschaftsWocheにて、ビル・ゲイツ氏その人が任天堂の買収に興味を示していることを伝えたのだ。「(当時の任天堂の取締役相談役で、元社長の)山内溥氏から電話があればすぐに応じる」とゲイツ氏は語ったという。ただしメディアの見立てとしては、山内氏が経営から退くとは考えがたく、あくまでゲイツ氏の希望的観測に過ぎないだろうとの向きが強かった。
ほか英国のThe Guardianでは、当時のElectronic Artsスポーツ部門社長ピーター・ムーア氏が別のエピソードを語っている。同氏がマイクロソフトに入社したのは2003年、初代XboxがPlayStation 2やニンテンドーゲームキューブとしのぎを削っていた時代だ。ムーア氏は当時のマイクロソフトCEOスティーブ・バルマー氏からの期待を一身に受けており、「どうやってソニーに対抗するか、どうやって任天堂と“競争もしくは買収”するか」関心を向けられていたという。ゲイツ氏のみならず、バルマー氏も任天堂の獲得に興味を示しており、多方面から買収が検討されていたことがわかる。そして、さらに以前にはマイクロソフトが初代Xboxでコンソールに参入しようとした際、任天堂買収を計画しているとの言説がまことしやかに囁かれていた。
今回明らかになった事実は、まさにその噂を裏付けるエピソードだ。Xboxが立ち上がろうとしている折、マイクロソフトは盤石の体制を築くため独占ソフトの確保を画策していた。豊かな財源でさまざまな企業に買収の話をもちかける中、交渉の相手には任天堂も含まれていたのだという。もとサードパーティー関連ディレクターを務めたというケヴィン・バッカス氏によれば、同氏はバルマー氏の命で任天堂に買収の話をもちかけた。ところが出向いてみると、任天堂側からバッカス氏は「死ぬほど笑われた」のだという。会合が続いた1時間の間、終始バッカス氏は笑い草にされていたと当時を振り返る。
また事業開発責任者のボブ・マクブリーン氏も同じく、任天堂と交渉していたと語る。2000年1月には、任天堂をマイクロソフトのオフィス内に迎え入れての合弁事業の詳細が検討されていたとのこと。ソフトウェアについては任天堂に任せ、ハードウェアに関してはXboxの技術仕様のすべてを提供するというかたちで検討されていたようだが、結局はこちらの件もうまくいかなかったそうだ。 Bloombergの記事では他にも、Electronic Artsやスクウェア・エニックス、『Mortal Kombat』で知られるMidway Gamesなどにアタックし、断られていった苦闘の歴史が語られている。やがて数々の試行錯誤はBungieとの縁を結び、『Halo』シリーズがXboxの看板を担うまでにつながっていく。
現在ではBungieはマイクロソフトから独立し、再買収の噂も否定。一方で『Fallout: New Vegas』のObsidianや『Wasteland』シリーズのinXile Entertainment、そしてBethesda Softworksの親会社であるZeniMax Mediaがマイクロソフトの傘下に収まっている(関連記事1/2)。もし任天堂の買収まで実現していれば、ゲーム業界の歴史は現在とまったく異なるものになっていただろう。まだまだ歴史の陰に隠れた驚きの裏話が明らかになるのかもしれない。
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