真の「2.5次元」が実現?
「ハリウッド大作映画の撮影風景はこっけいだ。全身タイツ姿の俳優たちが緑の背景で演じているだけなんだから」。そんな揶揄がもはや揶揄にすらならないほど、近年の映画ではグリーンバックを使ったCG合成が当たり前です。
ハリウッドに限らず、映画『パラサイト 半地下の家族』の邸宅の外観は半分がCGでしたし、2020年末に公開されたNetflixオリジナルTVシリーズ『今際の国のアリス』でも、セットとグリーンバックによるCG合成で渋谷スクランブル交差点を再現したことが話題となりました。
しかし、それと同時に「CG合成」にとどまらない、「CGを撮る」時代が到来しつつあります。
CGを撮る=バーチャルプロダクション
「CGを撮る」とはつまり、画面にCGを表示させて撮影するということ。
具体的には、超巨大なディスプレイに3DCGで作った背景を表示させ、その前に実際の人物や物を配置して撮影するというものなのですが、それだけではカメラを動かすと背景がディスプレイであることがすぐにバレてしまいます。
そこで、カメラの位置情報やレンズの焦点距離と、撮影範囲のCG描写をシンクロさせ、まるでCG内で撮影しているような効果を得る。
これらをパッケージとしてまとめたものが「バーチャルプロダクション」です。
『スター・ウォーズ』のスピンオフとして大人気の『マンダロリアン』がこのバーチャルプロダクションを使って撮影されたとして大きな話題となりました。
バーチャルプロダクション、日本上陸
さて、そんなバーチャルプロダクションが東京で体験できるとのお誘いをいただいたので、早速お邪魔してきました。
その名も「VIRTUAL PRODUCTION LAB」。ソニーPCL本社1階に設置され、研究開発に使われているスペースです。
『マンダロリアン』などの撮影で使われているほど巨大なものではありませんが、それでも十分な規模。このスクリーンを構成するのに、数え切れないほどの業務用LEDパネルが組み合わされています。
3DCGも「撮って作る」という発想
実際、米国ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントから配信される予定だったソニー会長 兼 社長 CEO 吉田 憲一郎氏によるグループ全社員へのメッセージも、2020年のコロナ禍における事情を鑑み、このバーチャルプロダクション・ラボによって撮影されました。
つまり、この背景も3DCGで作られているのですが、その制作プロセスがテック的に興味深いものでした。
というのも、これはいちから手作業で作られたCGではないのです。
実際の建物を通常のカメラで撮影するのと同時に、iPhone 12 Proに搭載されていることでもお馴染みの「LiDARスキャナー」を使って点群データで現地の空間を3Dスキャン。画像データと点群データを組み合わせ、その上で独自手法で実用レベルの3DCGに仕上げ、より低コストかつスピーディーに背景を制作しているのだとか。
人間の手で直さなくていいとまではいかないにしても、撮影した物体をミニチュア/CG化しているような感覚。まるでドラえもんの道具「ミニチュア製造カメラ」みたいじゃないですか。
まさに「光景」。CGと現実の区別が曖昧になる世界
バーチャルプロダクションの大きな利点の一つが、この動画のように人物や小道具に対して背景が光を介して
直接影響を与えられるという点。
グリーンバックを使った撮影後のCG合成では手作業による修正が必要となりますが、撮影する時点で映り込んでしまえばいいというこの手法には「逆転の発想」と呼びたくなる痛快さがあります。
プレイステーションやセガサターンなど32bitゲーム機時代は光源処理、近年ではレイトレーシングという言葉が、CGのリアルさを実現する技術として知られていますが、まさにそのリアル版であるかのように感じます。
モーションキャプチャー=人間がCG世界に入り込む手段なら、バーチャルプロダクション=CGを現実に具現化する技術かも。
ちなみにこの背景、夜の新宿を再現したCGのように見えますが、実際は架空の街。つまり、『龍が如く』の神室町や『ファイナルファンタジーVII』のミッドガルも再現できちゃうわけです。
「2.5次元って、もしやこれのこと?」なんて言いたくもなりますが、近年はリアルな街を再現したバーチャル渋谷が話題になるご時世でもあります。ハリウッドにおいてもご存知の通り、トム・クルーズが激怒したように、コロナ禍で大人数での撮影が困難な状況が続いていますよね。
使いようによっては劇的に少人数&低コストでの撮影を可能にするバーチャルプロダクションは、架空の世界だけでなく現実を舞台にした作品においても、これからの撮影のスタンダードになるかもしれません。
Photo & Video: 照沼健太
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