お絵描き系の記事になると自分は絵が描けないのに駆り出される男、僚誌DOS/V POWER REPORT編集部の編集Mです。お絵描きのほうは「わがままDIY」のざら先生にお任せになりますが、今回は自作パソコンユーザーにはおなじみ、ドスパラのクリエイター向けブランド「raytrek」(レイトレック)から発売された8型のWindows 10タブレット、「raytrektab 8インチモデル RT08WT」のレビューになります。
本製品にはワコムの技術(Wacom feel IT Technologies)を採用した高スキャンレート・低遅延のスタイラスペンが付属しており、ペイントツール「CLIP STUDIO PAINT DEBUT」のライセンスが付属。これ1つでお絵描きが楽しめるパッケージとなっています。
raytrekブランドのタブレットには8型と10型モデルがラインナップされていますが、8型モデルとしては2017年に発売された「DG-D08IWP」に続く2世代目となります。
CPUはAtom x5-Z8350からCeleron N4000に、メモリは4GBから8GB、ストレージも64GB eMMCから128GB SSDへと基本スペックも強化されているので、前モデルの愛用者にとっても待望の製品と言えるでしょう。
お値段は税別直販価格4万9,800円。12月10日より発売が開始されており、初回特典として三菱鉛筆とコラボレーションしたスタイラスペン「9800モデルスタイラス」がついてきます(12月末現在、まだ初回分が入手可能なようです)。
主要なスペックについては以下の記事をご参照ください。
「8型Windowsタブレット」という価値
タブレットパソコンという観点で考えても、iPad miniなどを代表される片手で持ちやすい8型クラスというのは根強いファンが多いジャンル。にも関わらず、市場での選択肢はむしろ減少気味という歯がゆい状況となっています。本製品は単純に8型のWindows 10タブレットと考えても、なかなか貴重な存在と言えるでしょう。
ただ、本製品にはそのコンセプトもあって、機能を限定した部分も見受けられます。画面解像度は1,280×800ドット(従来モデルと同等)と、今どきのタブレットとしてはやや低く、Webカメラは前後ともまったくついていないという潔さです。
その代わり、1ポートながらUSB 3.0対応のType-Cポートを備えており、DisplayPort Alternate Modeにも対応しているため、外部ディスプレイへの接続も可能。付属のアダプタも汎用的なUSB PDの30Wタイプとなっているため、スマートフォンの充電器などと共用することもできます。microSDスロットでのストレージ拡張もできるなど、ポイントはしっかり押さえた作りと言えるでしょう。
では、はたして実際の使い勝手はどうなのか? ここからは漫画家のざら先生に伺いながら見ていきたいと思います。
ミイラ取りをミイラにできるコスパ
――ざら先生は、普段タブレットでお絵描きはしていないものの、かつて艦〇これくしょんがブームになったころ、レノボのWindows 8.1タブレット「Miix 2 8」(今回と同じく8型)を使い込んでいたという古参提督でもあります。
ざら うちのMiix 2 8は3年くらい前に壊れたんですが、やっぱりあると便利なんですよね。iPad Pro 12.9も持っているんですが、重くてあまり持ち出す気になれないし、艦〇れもあまり安定動作しないので……
――今回は別にゲームのレビューしてもらいたいわけじゃないのですが……。
ざら これはいいのを教えてもらったな~、ということで、じつはデモ機をお借りした後、自分用のを買いまして。
――買ったんかい!! お値段はどう感じられました?
ざら 10万円だと考えますけど、5万円ならギリギリ衝動買いできました(笑)。Miix 2 8も解像度は同じ1,280×800ドットでしたけど、お値段は確か5万円弱だったと思います。
――2013年発売のMiix 2 8は上位モデルの64GBモデルで当時4万5,000円前後。CPUはAtom Z3740であり、マシンパワーの差を考えれば納得できる価格と言えます。ただ、Miix 2 8 64GBモデルではMicrosoft Office Home and Business 2013がプリインストールされていたことを考えると、いかにあの時期のタブレットが安かったのかにも気づかされます。
ざら 12.9型のiPad Proも持っていて、買ったときはiPadで仕事環境構築もおもしろそうだと考えていたのですが、あれは重くて大きいですからね。基本的に自宅で作業している人間なので、今は観賞用マシンみたいな感じになっています。あと、やっぱり長年Windows派ですし、RT08WTならメインパソコンと同じソフトが動くので安心感があります。
機能限定版なれど8型タブレットにはCLIP STUDIO PAINT DEBUTが最適?
――今回のレビューではこのRT08WTを使って漫画描きをお願いしたのですが、肝心のお絵描き機能と、CLIP STUDIO PAINT DEBUTという付属ソフトはどうでしょうか?
ざら 長年のワコムユーザーですが、ペンの追従性も感触も気にはならなくて、描き味は文句なしですね。ただ、スタイラスペンにファンクションボタンがないですし、消しゴム機能もありません。本体側にもファンクションキーがないので、ちょっとした切り換えでももたつく感じはあります。
でも、マルチタッチに対応しているので、机に置いて使うなら、右手でペン、左手の親指と人差し指でメニュー操作や拡大縮小、回転操作という感じで、慣れてくると結構スイスイ使えるようになりました。手に持って使う場合は、本体側面にせめてAltキーとShiftキーだけでもついていたらおもしろかったでしょうね。
ざら 最近仕事では上位版のCLIP STUDIO PAINT EXをメインで使っているのですが、DEBUTははじめて使いました。調べたらDEBUTはイラスト・アートワーク制作向けで、漫画はやっぱりEXかPROで、ということのようですね。クイックマスク機能とか、漫画のコマ割り機能とか、“範囲指定の境界線に線を引く”とか、私が普段使う機能がいろいろ封印されています。
タブレットなので直線を引くために必須のShiftキーも使えず、じつは今回、枠線を引くだけでかなり手間がかかりました(笑)。漫画的にはネーム作業(漫画のラフ描き)やコマ割りを決めたあとの下書き、単体イラスト向きですね。
――そもそもソフトが漫画向きではなかったようですみません。普段あえてすべての作業をこのタブレットでやる必要はないので、使い方しだいということになりそうですが、ソフトをアップグレードする気はありますか?
ざら 自分のRT08WTには、最初からパッケージ版のCLIP STUDIO PAINT EXをインストールしてみたのですが、今度は機能が多過ぎてメニューを相当削らないと肝心の描画スペースが確保できないということがわかりました(笑)。
せっかくDEBUTのシリアルナンバーが付属しているので、このタブレットにはやっぱりDEBUTを入れておくべきかと悩んでいるところですが、おそらくこの8型タブレットでお絵描きするにはDEBUTくらいの機能の範囲で使いこなすのがちょうどいいんですよ。
1,280×800ドットという解像度にもDEBUTが合っているんじゃないでしょうか。レイヤーはしっかり使えますし、PSDファイルでのメインパソコンとのやりとりもそのままできます。この手のソフトで機能限定版というと、ファイル保存に制限があるものがありますが、このDEBUTにはそれがないのがいいですね。
ざら 普段描いている漫画の原稿は、600dpiのおおむねA4サイズで、ファイル形式はPSDです(今回描いてもらった漫画もそのフォーマットで元解像度は6,851×5,669ドット)。RT08WTだとちょっと厳しいんじゃないかと思ったんですが、ペン入れはとくに重さを感じることもなくサクサク動きました。
ただ、2時間くらい連続して描き進んだあたりで、2本指で画面回転をしたら、フリーズしたように数秒間重くなることが出てきました。そのときのレイヤー数は15くらいでしたが、タスクマネージャを見るとCPU使用率がほぼ100%、メモリ使用率はまだ80%台でしたので、CPUパワー不足か、本体が熱くなって動作クロックが落ちた?みたいな感じでしょうか。
原稿を複数枚開くとメモリ使用率も100%を超えますが、そこは仕方がないですね。それでも、Windowsそのものがフリーズするようなことは長時間使っていても1回もなかったですし、結構大きなファイルにもかかわらずこれだけ動くなら十分だと思います。
――ちなみに、CLIP STUDIO PAINT EXにはiPad版もありますが、そちらは使われていないんですか?
ざら 試したことはあるのですが今は使っていません。一番の理由はパッケージ版(Windows/macOS版のみ)をすでに持っているからという単純な理由ですが、iPad版はデータ管理がやや煩雑で、パソコン上でのローカルバックアップ至上主義の自分にはあまり気が進まなかった、というのもあります。
DEBUTは単体販売されていない上に、WindowsかmacOSにしか対応していないバージョンのようですが、これがiPadとかAndroidで使えたらすごい気がしますね。
――ローカルバックアップ至上主義はいいのですが、たまに原稿が遅いときに「〇時間分のデータが消えちゃって書き直してます!」という、イイワケを聞くのは何なんですかね……。
気になるバッテリの動作時間は?
――モバイルならバッテリ動作時間は気になるところですが、公称の動作時間は6.5時間となっています。
ざら 画面輝度最大、電源モードは4段階中の3(高パフォーマンス)にして、ぶっ続けで左手に持ってお絵描きをやってみたのですが、満充電から3時間経ったところで、バッテリ残量表示は32%となっていました。その前に、本体の発熱が2時間くらい経ったところでほぼピークになりまして、結構熱かったです。
――別にエクストリームお絵描きをしてもらう必要はなかったのですが、その心意気は買います。
ざら 残32%の状態から、Wi-Fiでネットにつないで25分くらいのアニメを2本見たところで残り3%まで行きましたので、4時間は持つ感じですね。輝度を落として使えばもっと延びるでしょう。
――その輝度とか色には不満はなかったでしょうか?
ざら 輝度最大設定でも目が疲れない感じで、ちょうどいいと思います。色に私はあまり厳しくないのですが、RT08WTで描いたカラーイラストをデスクトップパソコンやiPadで表示させても大きな違和感はないですね。保護フィルムはサラサラしたものが貼られている分、ほんのわずかに白がかった感じはあるので、その分ほかのディスプレイで見ると彩度が上がって見える気はしますがその程度です。
USB Type-Cポートによる拡張性
――最後に拡張性ですが、USB Type-Cが1ポートだけというのは足りなくないですか?
ざら マウスとキーボードとUSBメモリはつないでみたかったので、USBパススルー給電対応のUSB Hubを購入しました。旅行に行くときはだいたいノートパソコンを持っていきますが、今後はRT08WTだけ持っていくこともあると思います。そのときWindowsのソフトウェアキーボードだけだとどうも不安なので、長年使っているコンパクトキーボードもつないで……と考えまして。
でも、縦にして絵を描くとUSBポートが下に来るので、ケーブルがつながっている状態だとどうやってもジャマになるということにあとで気がつきました。これはHubよりBluetooth接続のキーボードとマウスを買ったほうがよさそうですね。
電源アダプタをつなぐだけでも同じことが言えるので、USBポートは違う配置のほうがよかったと思わなくもないですが、いずれにせよ絵を描くときはタブレットはタブレットとして単体で使うほう絶対に楽だと思います。
――ディスプレイ接続などもあまり使われない感じでしょうか?
ざら たぶん、ビジネスマンがプレゼンで大型ディスプレイにつないだりするとカッコいいんだと思いますが、自宅でメインパソコンもつながっているディスプレイに、わざわざタブレットをつないで作業することはないですしね(笑)。
拡張性で言えば、専用カバーか、キーボード一体型カバーみたいなものは欲しいですね。オプションで交換用の換え芯は購入できるようなので安心していますが、近いうちにこれに合いそうなカバーを探しに行こうと思っています。
最後に
絵は描かないものの、普段4Kディスプレイで写真編集や雑誌のDTP作業を行なっている筆者からすると、1,280×800ドットの解像度でお絵描きというのはどうなの?と思ったのですが、本製品はお絵描きツールとしては付属ソフトウェアとのバランスがよく、よく考えられた製品だということがわかって一安心。
最近はiPadだけで描くイラストレーターや漫画家の方もおられるようですが、ざら先生のようにちゃんとパワーのあるパソコンのユーザーがサブで使うなら、軽量な8型で、メイン作業環境と同じファイルが扱えるというのはむしろ実用度が高いと言えそうです。
一番気になるのは、ざら先生、コレこの後ゲームマシンになるんじゃないの? 原稿遅れる要因増やしちゃったんじゃないの?というところでしょうか……。
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