『Astronomy & Astrophysics』誌に発表された最新の論文によりますと、われらが天の川銀河を構成している渦状腕のひとつである射手腕に、これまで知られていなかった不思議な構造が見つかったそうです。
「それ」は3,000光年の長さに連なった若い星々で、射手腕からあらぬ方向へと突き出ています。まだちゃんとした名称はなさそうなので、ここでは仮に「トゲ」と呼ぶことにしましょう。
渦巻腕から逸脱するものたち
こちらが「トゲ」の詳細です。射手腕に属するほかの星たちとは明らかに違う方向へと傾いており、ピッチ角はおよそ60度。射手腕そのものは天の川銀河の円盤からおよそ12度のピッチ角で傾いているのですが、それと比べても「トゲ」がいかにささくれ立っているかがわかります。
しかし、なぜこのような「トゲ」ができたのでしょうか? カリフォルニア工科大学の天体物理学者で、今回の論文の筆頭著者であるクーン(Michael Kuhn)氏でさえ、まだ確証には至っていないそうです。
おそらく「トゲ」に含まれている若い星たちは同じ時に同じ場所で誕生したと考えられることから、天の川銀河の回転によって生み出される重力や潮汐力に同じように影響されてきているはずです。ということは、いずれより正確な天の川銀河の地図が作られ、星と星との間に距離とそれぞれの速度を知ることができたなら、「トゲ」の成り立ち、ひいては渦状腕の成り立ちの謎も解ける…はず。
でも、そもそもどうやって天の川銀河の地図を作るのでしょう?
遠きを知りて近きを知らず
実は、天の川銀河のマッピングってものすごく難しいそうなんです。なぜかって、私たちがそのマッピングしようとしている地図上にいるわけですから。論文著者たち曰く、「私たちの視点が天の川銀河の円盤上にあるため、ひとつひとつの星形成領域をつなげて全体像を見ることは困難」なのだとか。
そこでクーンさんたちは、まずNASAのスピッツァー宇宙望遠鏡とESAのガイア計画によって集められたデータを分析しました。スピッツァーはNASAが昨年リタイアさせたばかりの赤外線宇宙望遠鏡で、分厚いガスや塵でできた星雲の中を覗くのが得意です。そのため星雲のおくるみに包まれた生まれての赤ちゃん星を見つけ出すには好都合でした。
具体的にはスピッツァーの「GLIMPSE調査」から10万個の赤ちゃん星を赤外線でスキャンしたデータが使われました。一方で、ガイア計画からは天の川銀河内の星と星との距離を計測したデータが使われました。これら2種類のデータを使うことで、クーン氏らは見事射手腕の詳細な3Dモデルを構築したのです。
ガイアとスピッツァーのデータを組み合わせることで、最終的にこの詳細な三次元マップにたどり着くことができました。[トゲが発見された]この領域は、以前は知られていなかったものの、かなり複雑なことが見てとれます
とクーン氏はNASAのプレスリリースにコメントしています。
天の川銀河の謎を解くヒントに?
「この領域」とは、射手腕のこれまであまり調査されてこなかった星形成領域のこと。射手腕自体は太陽系に近いこともあって、天の川銀河の中では比較的よく研究されてきたエリアで、オメガ星雲、三裂星雲、干潟星雲、わし星雲などいくつもの巨大な星形成領域を抱えています。
究極的に天の川銀河の大規模構造については、まだまだ知られていないことが多いと気づかされましたね。そして、その大規模構造を知るために、まず詳細から見ていく必要があるということにも
とスピッツァーのGLIMPSE調査で主任研究員を務めたウィスコンシン大学ホワイトウォーター校の天体物理学者のベンジャミン(Robert Benjamin )氏はコメントしています。さらに、
この「トゲ」は小さな構造でこそあれ、天の川銀河全体にまつわる大事な事実を我々に教えてくれるかもしれない
とも。
ちなみに天の川銀河以外の渦巻銀河に「トゲ」みたいな奇妙な構造が発見されたのは、これが初めてではないそうです。以前にも「拍車」や「羽根」と呼ばれる構造が見つかっており、なかには渦状腕から垂直に突き出しているものも。「拍車」は星が密になって明るく見える輝点で、「羽根」は塵が密集して作り上げた構造。けれども「トゲ」はこのどちらにも当てはまらず、別物だと考えられているそうです。
果たして「トゲ」は天の川銀河にだけしか見られないものなのか、またはほかの銀河にも存在するのか。今後の研究は「トゲ」の構造の謎に迫るとともに、「トゲ」探しも続行しそうです。
Reference: Astronomy & Astrophysics, NASA
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