年内にWindows 11が登場するとのことで、PC関連のメディアでは“Insider Preview版”がいろいろ話題になっている。筆者もどこかで試さなくては、と思いつつ時間だけが経過していたが、お盆期間にようやくインストールすることができた。Windowsのサウンド機能に変化があったのか試してみたので、レポートしてみよう。
変わった設定画面。オーディオインターフェイスやDAWは問題なく動作
Windows 11は、2015年リリースのWindows 10以来、6年ぶりのメジャーバージョンアップとされている。当初はWindows 10の21H2バージョンに相当するものでマイナーアップデートに過ぎない、などと言われていたこともあって、それほど急いでチェックすることもないだろう、とのんびり構えていたのが正直なところ。ただ実際には、21H2は別にリリースされるとのことだし、11はUIも含めいろいろと変わっているということなので、チェックしておかなくては、と思い至った。
第11世代Intel Core-i7搭載の小型PC「Intel NUC 11 Performance kit - NUC11PAHi7」を購入したこともあり、これにWindows 11をインストールしてみると、インストール自体も簡単に行なうことができ、何の問題もなく起動することができた。
各種メディアでも言われているとおり、「なぜスタートメニューが真ん中にあるのか」とか、「せっかく慣れたスタートメニューが大きく変わっている」「Chromeを使いたいのに、デフォルトブラウザの変更がし辛い」など、不満はいろいろある。ただ、スタートメニューは左に動かすこともできるし、Chromeも使えるようにはなったので、深刻な不満は解消。画面表示の方法が変わっていたり、設定やコントロールパネルなどの構造が変わるなど戸惑いはあるが、この辺は慣れの問題だろう、とも思っている。
恐らくはサウンド関係もUIが多少変わったくらいで、大きな違いはないだろうと予想しつつも、「もしかしたらオーディオ機能の改善をしてくれているのではないか」と淡い期待も持ちながら、チェックしていった。
まずオーディオを接続して、おや? と思ったのは警告音が変わったこと。どうでもいいところではあるが、OSがバージョンアップしたんだな、と実感するところでもある。警告音などの音量は画面右下のタスクトレイにあるスピーカーアイコンをクリックして行なうはずと思い、クリックするとここもWindows 10とはちょっと違う。
アイコンは確かにスピーカーになっているのだけれど、左隣のインターネットアクセスのアイコンと合体した格好になっていて、音量アイコンだけでなく、Wi-FiやBluetooth、夜間モードやアクセシビリティなどのボタンも一緒に表示される。ただ、この辺は好みに合わせてカスタマイズ可能になっている。
右クリックすると「音量ミキサーを開く」「サウンドの設定」の2つだけになっていて、Windows 10にあったコントロールパネルを開く「サウンド」がなくなっている。そして、その「音量ミキサーを開く」を選ぶと、設定画面に「音量ミキサー」というこれまでになかった項目が現れた。
ここでは、出力デバイスや入力デバイスが設定できたり、システム側とアプリ側の音量調整ができるようになっている。この辺を見ても、レガシーUIであるコントロールパネルを整理しようとしているのだなと感じるが、もちろんコントロールパネルは今まで通り存在しているし、「サウンド」も従来のままある。ただ、徐々にコントロールパネルの各機能にたどり着きにくくなっており、Windows 11でさらにコントロールパネルが隠された印象はある。
ほかにも、設定のサウンド>プロパティが変わっていて、従来コントロールパネルのプロパティにあったものがここにも含まれるようになった。とくに新しい機能はなさそうだが、設定のほうが充実してきている。
OSがバージョンアップすると、サウンドドライバが対応しない事が従来よくあったが、Windows 11ではどうだろう? 試しに手元にあるUSB Type-C接続のオーディオインターフェイスをいくつか試してみた。
具体的には、Focusrite「2i2 3rdGEN」、Steinberg「UR22C」、PreSonus「STUDIO 1810c」、Solid State Logic「SSL2+」、Audent「iD4mk2」、M-Audio「Air 192|6」。いずれもWindows 10用の64bitドライバをインストールし、Windows標準のドライバで音を出してみても、またASIOドライバで音を出してみてもまったく問題なく使うことができた。
これまでWindowsがバージョンアップしてきた際、OSのバージョン管理に厳密なドライバはうまくインストールできないというケースがあった。とくにRolandのドライバにそうしたケースが多かったため、USB Type-B接続の現行モデル「Rubix 24」を使ってチェックしてみたが、こちらもWindows 10用ドライバがそのまま利用できた。
アプリケーションの方はどうだろう。DAWで2大シェアを持つSteinberg「Cubase Pro 11」とPreSonus「Studio One 5 Professional」を試してみたところ、こちらも問題なく動いてくれた。
まあ、あまり細かくチェックしているわけではないが、軽くひと通りの機能を触って問題はなさそうだった。プラグイン回りなどは確認し切れていないが、大きく問題はなさそうに思える。今後正式版のWindows 11になるまでに大きく変わる可能性がゼロではないが、このInsider Preview版がベースとなっているのであれば、DTM環境においてはスムーズに移行できそうに思える。
カーネルミキサーに変化無し。しかもフェードイン機能消せない問題が発生!
さて、ここからチェックしたいのがWindows本体のオーディオ再生機能について。これまでWindows 3.1から95、98、2000、Me、XP、Vista、8、10……と続いてきたオーディオ機能に進化があるのか、ということだ。
これまで本連載でずっと指摘し続けてきたのが、WindowsのオーディオシステムにはWindows Vista以降でカーネルミキサーなるものが入っており、これが音に悪影響を与える、というもの。マイクロソフトではWindows 8以降カーネルミキサーとは呼ばず、オーディオエンジンと呼ぶようになっているが、一般的にはカーネルミキサー問題として知られているので、あえてここでもそう呼ぶことにする。
カーネルミキサーは複数のアプリケーションで同時に音を出しても、音量オーバーして歪んだり、音が途切れたりしないようにするという意味での有用性はあるが、大昔にマイクロソフトが設計したミキサーがそのまま使われているため、ここを通すだけで音質が劣化するという問題がある。最大音量にしてスルーさせておけば、基本的には大きな問題はないのだが、CDなどの音源を流すと、最大レベル近くでリミッターが効いて、音が変化してしまうのだ。
ASIOドライバを使うことで、カーネルミキサーをバイパスできるので、ASIOドライバが使えればそれでOKだが、標準のドライバだどうしてもカーネルミキサー問題が生じてしまう。
第528回:「Windowsオーディオエンジンで音質劣化」を検証
第530回:「Windowsオーディオエンジンで音質劣化」検証その2
もっともマイクロソフトもその辺は認識しており、Windows Vista時代にWDMドライバ(Windows Audioドライバ)というものを出しており、これの排他モードを使うことで、カーネルミキサーをバイパスできるようになっている。ところが、Windows標準の音楽プレーヤーがWDM排他モードに対応していないため、ほとんどのWindowsユーザーにその恩恵がない。せめてそれを用意すべきだと思うのだが、Windows 11で変わったのだろうか?
さっそくWAVファイルをダブルクリックしてみたところ起動したのは、Grooveミュージックだった。バージョンをチェックしてみると10.21061.1012.0となっており、現行のWindows 10と同じ。ほかにプレーヤーはないかとみてみたが、やはりWindows Media Playerしか入っておらず、Windows 10と何も変わっていないようだ。
以前と同じ手法で、ピークリミッターが効いているかどうかのチェックを行なってみる。具体的には先頭にインパルス信号というか、1サンプルだけ大きい音を入れた楽曲をGrooveミュージックで再生し、それをオーディオインターフェイスのループバック機能をオンにした状態で、波形編集ソフト(SOUND FORGE)で録音するのだ。
録音結果にもインパルス信号が入っているはずなので、これを見つけ出し、それ以前の空白を削除。その上で録音した結果とオリジナル曲を反転させた状態で重ね合わせる。もし同じ音であれば、お互いが打ち消しあって無音になる。ところが、もしリミッターが効いていると差が表れる。
今回UR22Cのループバック機能を使ってこの実験を行なったところ、いきなり問題が発生した。以前から気になっていたが、Windows 10のどこかのバージョンから曲頭に“フェードイン”がかかるようになり、マークとして入れたインパルス信号が再生されないで消えてしまうのだ。
以前、サウンドデバイスのプロパティで「アプリケーションによりこのデバイスを排他的に制御できるようにする」のチェックを外すことで、フェードインをオフにすることができたはずなのだが……いろいろ試してみてもダメ。
ネットを調べてみると、全オーディオデバイスで、排他制御をオフにすればいいとか、拡張設定でのエフェクトをオフにすればいい、といった情報もあり、片っ端から試してみたがダメ。もしかしてWindows 11だからダメなのか? と思い、Windows 10の21H1でも同じことを試してみたが、Windows 10でもすでに完全オフにすることができない仕様になっているようだ。
カーネルミキサーにせよ、このフェードインにせよ、まさにマイクロソフトによる大きなお世話というか、いらない機能を付けるな! というのが正直な感想。もちろん、一般の多くのユーザーにとってはフェードインがあったほうがキレイに聴こえるかもしれないが、音楽を楽しみたい人にとっては、いらない機能。せめてオフにする機能をしっかり用意してほしいところだが、それもなくなっているので、どうすることもできない。
実はいろいろ触っていた中、1度だけフェードインがかからない設定になったのだが、裏で別の音が鳴っていたのか、SOUND FORGEの録音結果は妙なノイズが入ってしまっていて失敗。
その後何度トライしてもうまくいかないので、作戦変更。
先ほどのインパルス信号の前に1秒無音の信号を入れてから再生してみた結果、今度はインパルス信号を記録することに成功。これを使って、前述のような位相反転ミックスをしてみると……。結果は以前とまったく同じだった。
やはり大きな音が来るタイミングでピークリミッターが掛かってしまい、再生音を変質させてしまう。やはりWindows 11には何も進化がなかったというか、Windows 10のどこかのタイミングでフェードイン機能を削除することもできなくなり、さらに悪化しているようだ……。
最後に試してみたのは、ピークリミッターをオフにするツールだ。Digital Audio Laboratoryの第674回の記事でも紹介した川本優氏開発の「Disable Peak Limiter in Windows Audio Engine」というツール。見てみたところ、その後2度のバージョンアップを経て、現在Ver 1.2となっており、Windows 10でも動作するとある。
早速試してみたところ、Windows 11でも問題なく使えるようだった。先ほどの実験をしてみたところ、ピークリミッターの影響はなく、キレイに音はすべて打ち消された。このツールはWindows起動後に毎回手動で実行しなくてはならないという面倒さはあるが、ピークリミッター問題は解消できる事が分かった。
なぜ、こうした機能をマイクロソフトが実装できないのか、納得いかないところではあるが、残念ながら音にはそれほど関心がないということなのだろう。ちなみに、先ほどのフェードイン問題はDisable Peak Limiter in Windows Audio Engineでは解消できなかった。可能であれば、Disable Fade-inといったソフトも作ってもらえるとうれしいところだ。
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