Intelは10月31日(現地時間)、開発コードネーム「DG1」として開発を続けてきた薄型ノートパソコン向けのディスクリートGPU「Intel Iris Xe MAX Graphics」を正式発表した。
IntelがディスクリートGPUを提供するのは1998年に発表されたIntel 740以来で、当時はGPUではなくグラフィックスチップなどと呼ばれていた(以下、内蔵GPUを「iGPU」、ディスクリートGPUを「dGPU」と呼称する)。
Intel久々のdGPU「Iris Xe MAX」
「Iris Xe MAX」は、Tiger Lakeこと第11世代CoreのiGPU「Iris Xe」を、抜き出して単体チップにしたようなものだ。要するに、Tiger LakeからCPUに関する部分(CPUコアとLLC)を取っ払ったチップだと考えればわかりやすいだろう。
このため、GPUのスペック部分に関しては、一部を除きTiger Lakeに内蔵されているIris Xeとほぼ同等だ。Tiger LakeではSKUによってはEU(実行ユニット)が48基の製品も用意されているが、Iris Xe MAXでは96基が内蔵されており、ハードウェアエンコーダ/デコーダなどが従来製品の2倍のスループットを実現している(具体的にはエンコーダ/デコーダのエンジンが倍になっている)。
さらに、DP4Aと呼ばれるFP32をINT8に置き換えてディープラーニングの推論を行なう「DL Boost」に対応していること、PCI Express 4.0 x4に対応していることなども共通。PCI Expressバスは同4.0対応の第11世代Coreとの接続に利用される。
第11世代Coreに内蔵されているIris Xeとの違いは、専用のビデオメモリが搭載されていることだ。4GBのチップがパッケージ外に搭載されており、最大で68GB/sの帯域を実現している。
メモリはLPDDR4x-4267になるので、128bit(64bitのデュアルチャネル)幅でアクセスしていると考えられる。つまりTiger Lakeのメモリコントローラと同じ仕様だ。
また、クロック周波数も引き上げられおり、Tiger Lakeに内蔵されているIris XeはTurbo Boost有効時には最大1.35GHzまで向上可能だが、Iris Xe MAXではそれが最大1.65GHzへと引き上げられている。
なお、熱設計消費電力(TDP)などに関しては非公表だが、OEMメーカー視点でのデザインでは、NVIDIAのGeForce MX350と同程度の熱設計消費電力の枠で設計できるという。つまり、GeForce MX350と同様のシステムならIris Xe MAXを搭載可能ということだ。
NVIDIAのノートパソコン向けdGPUもそうなのだが、公式なスペックとしてTDPは公開されていない。ノートパソコン用のdGPUのTDPは可変のcTDP(Configurable TDP)であり、ノートパソコンメーカーが性能を勘案してTDPを自由に設定できるからだ。
Deep LinkによりiGPUとdGPUを1つにして演算
Iris Xe MAXは現状では第11世代Coreとの組み合わせでのみ提供されるが、第11世代Coreとセットにして利用することで、いくつかのメリットを実現する。その基礎となるのが「Deep Link」だ。
Deep Linkは簡単に言ってしまえば、CPUに内蔵されているiGPU(Iris Xe)と、dGPU(Iris Xe MAX)が協調して動く仕組みのことで、ソフトウェア的なフレームワークとハードウェアの両面でそれぞれのGPUを使って演算したり、電力をより効率よく使って性能を向上させたりすることができる。そのメリットは現状では以下の3つになっている。
- CPUとdGPUで電力を動的にシェアして両者の性能を最大限引き出す(Dynamic Power Share)
- AIアプリケーションでの性能向上
- iGPU+dGPUでメディアエンコードを高速化
(1)のDynamic Power ShareではIntelのCPUとdGPUが強調して動作することで、Intel CPUと他社のdGPUを組み合わせた場合に比べて、より効率よくCPUやGPUの性能を活かせるようになる。
たとえば、GeForce MX350などのdGPUを搭載したシステムでは、CPUに16~20W、GPUに10W程度で合計30Wほどの熱設計電力の枠を設定しておくことが多い。この場合は、GPUを使っていない場合でもCPUには20W程度しか割り当てできない。
それに対して、第11世代Core+Iris Xe MAXの場合は、CPU+dGPUが30W程度だとすれば、30WをCPUが丸々使うという柔軟なTDP枠の利用が可能になり、性能向上を図れる(上記のスライドのグラフ左側の「CPU」というエンコード性能がこの例に該当)。
CPUとGPUを合わせて使う場合にも、それぞれの負荷に応じて最適なTDPの割り当てが可能になるので、Intel CPU+GeForce MX350という組み合わせよりも、Intel CPU+Iris Xe MAXの組み合わせのほうが、1.4倍ほど性能が高くなっている(上記のスライドのグラフ右側の「GPU」というグラフが該当)。
エッジAIのアプリケーションが、ディープラーニングの推論を利用する場合には、CPU、iGPU、dGPUのすべてをより効率よく利用できる。その場合には、最大で7倍程度の性能を発揮可能だ。
Topaz LabsのGigapixel AIを利用した写真のアップスケーリング処理を利用すると、第11世代Core i7-1165G7+Iris Xe MAXの組み合わせは、第10世代Core i7-1065G7+GeForce MX350よりも最大で7倍速い。
また、動画のエンコードでも大きな効果があるという。第11世代Coreに内蔵されているIris Xe、そして今回発表されたIris Xe MAXのメディアエンコーディングエンジン(QSV)は、内蔵されているメディア処理のパイプラインが2つになり、それぞれ従来世代と比較して2倍のスループットを実現している。
今回Intelが公開したのは、ドライバレベルでiGPU、dGPUのそれぞれに用意されているメディア処理のパイプラインを4つまとめて利用できるようにしたもので、それによりスループットが大幅に向上する。
Intelによれば、すでに第11世代Coreに内蔵されているIris Xe単体でもGeForce RTX 2080 SUPER Max-QのNVENCを上回っているとのことだ。さらに、第11世代CoreとIris Xe MAXを組み合わせることで、GeForce RTX 2080 SUPER Max-Qの2倍以上のスループットを実現可能になるという。
現在はまだ開発中だが、将来のIris Xeのデバイスドライバなどのアップデートで提供され、Windows 10で利用できるようだ。提供開始は2021年前半中とされている。
現時点では3Dゲーミング向けのマルチGPUには未対応だが本命「Xe-HPG」に向けてソフトウェア側の対応を促す
このように、AIやメディアエンコーディングで大きな効果があるIris Xe MAXだが、3Dゲームに関しては、2つのGPUがあるという効果はない。
いわゆるマルチGPUというソリューションには対応していないため、DirectXなどの一般的な3D APIを利用するゲーミングソフトウェアからは、CPU内蔵のIris Xeか、dGPUのIris Xe MAXかのどちらかしか利用できないからだ。
それでも、Intelが公開したデータによれば、GeForce MX350と同等の性能を発揮しており、いわゆるAAAタイトルで30fpsを超えているのは第11世代Core内蔵のIris Xeと同じだ。
Intelは「Deep Link」への対応をソフトウェアベンダーに促しており、同社がサードパーティのソフトウェアベンダー向けに提供しているOpenVINOの開発キット、Intel Media SDKなどにより、Iris Xe MAXへの最適化が容易になると説明している。
すでにTopaz LabsのGigapixel AI、XSplitなどが対応を自社のソフトウェアに実装しているほか、Cyberlinkなどのソフトウェアでも対応が実現される予定だという。
Intelとしては、今後ゲーミング向けGPUとなる「Xe-HPG」(開発コードネーム)がリリースされる時期に向けて対応ソフトウェアを増やしていきたい意向で、ソフトウェアベンダーの対応を促していく。
デスクトップ向けDG1の提供も計画されているものの、単体販売の予定はなくOEMメーカー経由で提供されるかたちとなる。現状のDG1はゲーミング向けではないためだろう。
来年(2021年)にはもっとEUなどを増やしたDG2も計画されており、ステップバイステップで、本命となるゲーミング向けのXe-HPGの準備が進んでいる印象を受ける。
なお、今回のIris Xe MAX搭載薄型ノートパソコンとしては、すでにAcerのSwift 3X、ASUSのVivoBook TP470が発表済みだ。
さらに、今回の発表に合わせてDellからInspiron 15 7000 2-in-1にも搭載され、10月31日から米国のリテール市場で販売されることが明らかにされた。グローバルでも段階的に提供されていくことになる。
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