太陽系のなかで回転し続けること10億年。コマのような形をした小惑星「ベンヌ」に、ついにNASA の探査機「オシリス・レックス」が到達し、タッチダウン(着地)を成功させた。計画通りなら、探査機はわずか数秒で小惑星の表面から岩石と塵を採取し、すぐにその場を離れたはずだ。(参考記事:「NASA探査機、小惑星ベンヌのサンプル採取へ」)
実際にサンプルを採取できたかどうかを確認するには数日かかるが、探査機が目標地点から76センチ以内に着地したことはわかっている。
十分な量のサンプルが採取できていれば、オシリス・レックスは2021年3月にベンヌを離れ、2年半かけて地球へ戻る予定になっている。その後サンプルを積んだカプセルを発射し、パラシュートを開いて米国ユタ州の砂漠へ降下する。
オシリス・レックスは、ベンヌの歴史について豊富な情報をもたらすと期待されている。また、地球上に存在する水と生命の起源についても、理解が深まるかもしれない。
NASA惑星科学部門の責任者、ロリ・グレイズ氏は、10月19日のプレスリリースで次のように述べた。「小惑星は、宇宙を漂うタイムカプセルのようなものです。太陽系の誕生に関わる記録を隠し持っているかもしれません。また、私たちの地球を含め、惑星がどのように誕生したかについて貴重な情報をもたらしてくれると期待しています」
だが、なかには生命を脅かす恐れのある小惑星も存在する。ベンヌもそのひとつだ。NASAの予測によると、ベンヌは2100年代後半に2700分の1の確率で地球に衝突する可能性があるという。今から数十年後、さらに詳しい計算によって衝突が確実になれば、オシリス・レックスからのデータを使ってベンヌの動きを監視し、軌道を修正して衝突を回避できる可能性もある。
古代の世界への旅
ここまで来るには、16年間という長い道のりがあった。(参考記事:「NASA探査機、小惑星ベンヌへ往復7年の旅」)
ベンヌの探査計画が最初に持ち上がったのは2004年、正式な探査対象に選ばれたのは2011年5月のことだった。だが、そのわずか数カ月後、米アリゾナ大学の惑星科学者で、オシリス・レックスのチームのリーダーだったマイク・ドレイク氏が、長い闘病の末に亡くなった。その後、アリゾナ大学の惑星科学者ダンテ・ローレッタ氏が、ドレイク氏の役割を引き継ぐことになった。
探査機は2016年9月8日に打ち上げられ、数千万キロを飛行した後、2018年12月にベンヌに到着した。ベンヌは、探査機が周回した天体としては過去最小で、平均直径は520メートルにも満たない。「がれきの山」が、微かな重力だけでなんとか形を保っているという状態だ。そのような環境では、ほんのわずかな力が加わっただけでも、探査機の軌道がずれてしまう。
そのため、オシリス・レックスのチームは探査機の動きを驚くほど詳細にモデル化し、軌道を確認して、頻繁に修正を加えた。そうでなければ、軌道の誤差はあっという間に大きくなり、探査機の正確な位置がわからなくなっていただろう。
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